ベトナムの結婚式を調べてみた。10人一卓の料理、自宅の儀礼、ホーチミンの婚礼サービス

ベトナム生活図鑑 第3回|公開一次資料の確認:2026年9月29日
ホーチミンの結婚式場Asiana Plazaのメニューを開くと、鶏肉の味噌ソース、韓国風の牛肉鍋、チョコレートケーキが一つのコースに並んでいる。掲載価格の目安は一人分ではなく、10人一卓で約520万VND。別のコースには、ディジョンソースを添えたエビのベーコン巻きと、潮州式の海鮮鍋が入る。こちらは一卓約611万VNDだ。
「ベトナムの結婚式」と聞いて、まずアオザイや大勢の招待客を思い浮かべる人もいるだろう。ただ、現地のサービスを調べると、その内側には、料理を選ぶ、披露宴の空間をつくる、自宅で両家が集まる場所を整える、という別々の仕事がある。会場を予約することと、結婚にまつわる行事のすべてを手配することは同じではない。
今回はホーチミンを中心に、宴会場、装飾会社、婚礼サービス会社が実際に案内している商品をたどる。料金は公式サイトの掲載例であり、都市全体の平均でも、同じ条件でいつでも予約できる確定見積もりでもない。前撮りと新婚旅行は別の回で扱い、ここでは式当日の会場と家族の儀礼に焦点を当てる。
一卓520万VND。そのテーブルに何が出るのか
Asiana Plazaが2026年3月28日に掲載した案内には、10人用の秋のメニューが約520万VND、Fusionメニューが約611万VNDとある。前者には海鮮ダンプリングのスープ、味噌ソースのローストチキンとおこわ、麺を添えた韓国風の牛肉鍋などが並ぶ。後者にはカニとアスパラガスのスープ、牛肉料理と黒ごまのパン、潮州式海鮮鍋などがある。Asiana Plazaの公式メニュー・価格案内
10人で割れば、料理の掲載価格はそれぞれ一人当たり52万VNDと61万1,000VNDになる。ただし、これは単純に割り算した数字だ。一人ずつ同額で参加するレストラン商品という意味ではなく、酒類、追加の装飾、撮影などを含む婚礼総額でもない。「一卓いくら」という表示を、何の料金か分けて読む必要がある。
献立はベトナム料理だけで完結していない。味噌、韓国風の鍋、潮州料理、洋風のソースが同じ婚礼メニューに入り、おこわや麺、パンなど、主食もそれぞれの料理に合わせて組み込まれている。
同じ市内のRiverside Palaceは、公式メニューを前菜、スープ、主菜、デザートに分けている。前菜には、タイ風マンゴーサラダを添えたサーモンのフライ、タロイモで包んだエビのフライとタルタルソース、ココナツの芯とエビのサラダなどが載る。式場ごとの違いは、会場写真だけでなく、こうした食材と調理法にも表れている。Riverside Palaceの公式婚礼メニュー
一つの建物に、いくつもの宴会場がある
Asiana Plazaは、Phan Đăng Lưu通りのBình Thạnhと、Vườn Lài通りのTân Phúという二つの拠点を案内している。これらは同社の支店名で、現在の公式住所はそれぞれGia Định坊とPhú Thọ Hòa坊だ。公式トップページが示す対応人数は、前者が50〜500人、後者が100〜500人。式場名が同じでも、招待人数と場所を選ぶ段階から支店が分かれている。Asiana Plazaの拠点案内
Tân Phúの施設紹介では、2020年に登場した拠点として、使用面積4,000平方メートル、八つの大ホールを掲げている。これは一組の結婚式が4,000平方メートルを専有するという説明ではなく、施設全体の規模だ。大きな建物の中から、人数や会場の形に合うホールを選ぶという構造が見えてくる。Asiana Plaza Tân Phúの施設紹介
Riverside Palaceも、一つの名前を持つ巨大な披露宴会場だけではない。施設紹介は九つの宴会場を掲げ、Seine、Nile、Volga、Thames、Danube、Amur、Elbeといった川の名前を紹介している。ホールをつなげて利用できる構造も案内されており、独立した部屋として使う場合と、連結して使う場合では空間の大きさが変わる。Riverside Palaceの施設紹介
そのうちAMURの仕様は、面積540平方メートル、円卓形式450人、シアター形式500人、立食形式540人。同じ部屋でも、食事用の卓を置くか、椅子だけにするかで定員が異なる。結婚式場の紹介に大きな人数が書かれていても、それが食事をする披露宴の人数なのか、会議や立食の人数なのかは別に見なければならない。AMURのレイアウト別仕様
屋外のGreen Riversideは、面積1,000平方メートル、収容人数300人という案内だ。屋内ホールを連結する使い方とは別に、屋外に席を置く会場も選べる。Riverside Palaceの各会場案内
大会場にも、100〜300人に区切る仕組みがある
White Palaceは、Hoàng Văn Thụ、Phạm Văn Đồng、Võ Văn Kiệtの三拠点を公式サイトで案内している。Phạm Văn Đồngの拠点は敷地面積2万平方メートル。Hall Aは最大3,500人、Hall Bは最大2,200人という施設側の案内で、いずれも区画を分けられる。これらは多目的イベント施設としての収容規模であり、結婚式の平均人数ではない。White Palace Phạm Văn Đồngの施設仕様
一方、Võ Văn KiệtのNoraは、可動式の間仕切りによって三つの宴会場に分け、各区画で100〜300人規模に対応するという説明だ。同じ拠点のFelixは天井高9.1メートルを掲げ、天井から下げる装飾や映像を使う演出への対応を紹介している。人数の調整と、上方向まで使う舞台づくりが、それぞれ異なる設備の話として出てくる。White Palace Võ Văn Kiệtの会場案内
GEM Centerも、婚礼だけに用途を限定した建物ではない。公式紹介は約1万平方メートルの可変的なイベント空間を掲げ、屋内外の催し、会議、企業イベント、パフォーマンスなどを対象にしている。ホーチミンで婚礼の会場を探すと、こうした多目的施設と、婚礼を前面に出す宴会場の両方に行き当たる。GEM Centerの公式施設紹介
ここまでの数値は各施設の規模であり、年間の婚礼件数や売上高とは異なる。今回の一次資料では、全国の婚礼サービスを同じ範囲で集計した売上総額は確認できなかった。
結婚する年齢にも、都市と地方の違いがある
会場や商品を選ぶ人たちの背景については、統計機関の資料もある。2025年1月6日公表のベトナムの2024年中間人口・住宅調査による平均初婚年齢は27.3歳。男性29.4歳、女性25.2歳で、全体では2019年より2.1歳上昇していた。女性については、都市部26.8歳、農村部24.1歳と地域差も示されている。基準日は2024年4月1日で、全国の調査区の約20%を抽出した人口調査の結果だ。ベトナム統計機関・2024年中間人口住宅調査の主要結果
ここでいう平均初婚年齢はSMAMという人口指標で、調査時点の年齢別の未婚割合をもとに推計する。2024年に婚姻届を出した人の年齢を単純平均した数字でも、今回紹介した会場の利用者の平均年齢でもない。都市部と農村部の女性の差は2.7歳。全国平均だけでは見えない違いもある。統計機関による初婚年齢指標の定義
会場のパッケージには、招待状や花嫁の控室も入る
Asiana PlazaのPremier Wedding Packageを見ると、料理のほかに、背景パネル、写真などを飾るギャラリーテーブル、ステージを同じテーマで整えるサービスが並ぶ。さらに、場面に合わせた音響・照明、来場者を迎えるバイオリン演奏、オープニングのパフォーマンス、花嫁用の準備スペースと軽食、電子招待状まで案内されている。Premier Wedding Packageの公式案内
ここでいうギャラリーテーブルは、料理を食べる円卓とは別のものだ。装飾のパッケージでは、背景、ギャラリー、ステージが別々の項目として扱われる。披露宴の写真に映る花や大きなパネルを、建物にもともと備わった内装と考えると、会場そのものと、その日のために整える部分の区別がつかなくなる。
ただし、このパッケージの案内には適用条件があると明記され、確認できた本文には一律の総額が示されていない。先ほどの520万VNDの料理メニューに、電子招待状から生演奏まですべて含まれる、と組み合わせて読むことはできない。会場の商品には、卓単位で金額を見せる料理と、個別の内容を相談する演出パッケージが並んでいる。
宣誓式、披露宴、夜のパーティーを「体験する」企画
White Palaceが2026年5〜6月向けに告知したSENSATION OF “I DO”は、挙式予定の人が模擬婚礼を体験する企画だった。会場は三拠点で、5月23日がHoàng Văn Thụ、5月30日がVõ Văn Kiệt、6月6日がPhạm Văn Đồng。2026年9月時点ではすでに過ぎた日程であり、現在参加できる催しとしての紹介ではない。White Palaceの模擬婚礼イベント案内
告知された進行は、会場とサービスの見学、宣誓式、披露宴、そして21時以降のカクテルと音楽を伴うパーティーという流れだった。食事の会が終わったらすべて終了、という組み立てではなく、誓いの場面、食事の時間、その後の集まりを分けて見せている。
参加手順も、会場へ自由に立ち寄る案内とは違っていた。専用ページで情報を入力し、Ticketboxを通じて支払い、予約確認のメールを受け取る方式が告知されている。チケット料金や実際の参加人数はここでは確認できていない。この企画は会場側による模擬婚礼であり、一般的な式の標準進行でも、告知どおり開催されたことを確認した現地レポートでもない。
披露宴の外側にある、自宅での「Lễ gia tiên」
大きな宴会場とは別に、自宅を整える婚礼サービスもある。ここで出てくる言葉がLễ gia tiên。婚礼サービス会社WEDDINGBOOKは、祖先に結婚を報告する儀礼として、自宅の祭壇と両家の接客スペースを説明している。新郎側の家では、花嫁を迎えた後に二人で祖先に挨拶する流れなどを紹介する一方、宗教や地域の習慣に合わせた準備にも触れている。WEDDINGBOOKの自宅儀礼・装飾案内
同社がDream Weddingとの協業例として紹介している装飾は、祭壇、両家が着席するテーブル、家の入口を共通のテーマで整えるものだった。披露宴会場のステージを飾る作業とは、場所も必要な道具も違う。家の中で親族が向かい合う席をつくり、入口から祭壇までの見え方を合わせる仕事になる。
道具の使い方は、新婦側と新郎側の説明を読むと分かりやすい。新婦側では家族の代表が祭壇に線香と灯りをともして結婚を報告し、二人が年長の親族に茶を差し出して祝福を受ける。新郎の家へ花嫁を迎えた後には、二人が祖先に挨拶し、両親に礼をして年長者に茶を勧める、という流れだ。装飾の明細に載る茶器や接客用の椅子は、こうした家族のやり取りのために用意される。
この案内は2022年9月5日掲載、2025年11月25日更新と表示されるが、本文には2022年の催しへの誘導も残るため、そのまま現在の販売条件とはしない。また、ここで取り上げた儀礼を、宗教や民族を問わずすべての家庭が同じように行うと考えるのも早計だ。今回読むのは、ホーチミンの事業者が、依頼する家族に向けて説明している準備の一例である。
500万VNDの自宅装飾に、何が含まれているか
ホーチミンのHoa Cau Weddingには、自宅装飾の商品別ページがある。確認時点でLUX 08の表示価格は500万VND。主な内容は、二人の名前を立体文字で入れる背景、両家用のテーブルとTiffanyタイプの椅子12脚、贈答品を置く台、茶器、テーブルの花、造花を使った入口の装飾などだ。二人の名前を印刷した水のボトルも項目に入っている。Hoa Cau Wedding「LUX 08」の商品仕様
小さく書かれた条件も具体的だ。色は変更できるが、生花への変更は追加見積もり。二面を覆う目隠し用の幕は単価に含まれず、配送支援は半径5キロメートル未満とされる。ただし、支援額や距離の起点までは明記されておらず、「5キロ以内は配送無料」とは読み替えられない。背景パネルだけ買えば完成する商品ではなく、家の広さ、見せたくない壁面、花材、運ぶ距離によって手配内容が変わる。
同社の2026年5月の価格解説では、VIPという別区分に1,050万〜1,100万VNDの掲載例がある。こちらは大きな背景や、硬い壁状の装飾、造花と付属品の組み合わせを案内する。追加の椅子や、既存の型を使わずに設計する装飾も費用に関わるという説明だ。500万VNDをホーチミンの自宅儀礼の総額と捉えるのではなく、一社の一つの商品として見ると、その中身がはっきりする。Hoa Cau Weddingの2026年価格解説
商品名の「Luxury」や「VIP」だけでは、花材の種類、椅子の数、覆う壁面までは分からない。LUX 08なら造花と12脚が基本で、生花と二面の目隠し幕は別、というように設置する物ごとに範囲が決まっている。
贈答の盆には、菓子、茶、果物が載る
婚礼でキンマの葉とビンロウの実が繰り返し登場するのには、植物を飾る以上の背景がある。国立歴史博物館の展示解説を文化スポーツ観光省が掲載した資料は、trầu cauを夫婦や兄弟の結び付きの象徴として説明している。葉、実、石が結び付く伝説と、来客に勧める習慣、婚礼などの贈答がつながっている。これは2012年の文化展示の解説であり、現在の婚礼の実施率を示す調査ではないが、贈答品とジュエリーに同じ植物が現れる理由を知る資料になる。国立歴史博物館の「ベトナムのキンマ・ビンロウ文化」展示解説
家族の儀礼には、食事とは別の食品も登場する。Riverside Palaceの解説が挙げるTráp ăn hỏiは、新郎側から新婦側へ持参する儀礼用の贈答品だ。例として、キンマの葉とビンロウの実、バインフーテーという菓子、酒と茶、果物などが紹介されている。披露宴で招待客が食べるコースとは、食品を用意する目的が違う。Riverside Palaceの儀礼用贈答品の解説
同じ解説は、盆の数について北部では5・7・9など、南部では6・8などの例を示しつつ、内容や数は地域と両家の合意によって変わるとしている。決まったセットを全国で共通に購入するもの、という説明ではない。装飾会社の商品に「贈答品を置く台」が含まれていたのも、こうした品々を家の中に配置する場面があるためだ。
婚礼に登場するキンマとビンロウは、宝飾品の名前にもなっている。PNJの婚礼向け商品群にはTrầu Cauというコレクションがあり、公式の商品一覧はキンマの葉とビンロウの実をデザインの着想として説明している。儀礼で用意する植物の組み合わせが、そのまま現代のジュエリーのモチーフにも使われている。PNJの婚礼向け商品一覧
一覧には24Kのネックレスだけでなく、14Kホワイトゴールドとダイヤモンド、10Kホワイトゴールドのセットもある。「ベトナムの婚礼ジュエリー」と一括りにしても、素材や形は一つではない。金相場や商品の重量によって価格が変わるため、ここでは一覧の金額を結婚する家庭の平均的な予算としては使わない。
当日撮影のチームは、会場だけを撮るわけではない
WEDDINGBOOKがPhóng sự cướiとして案内する当日撮影は、結婚式場で二人の写真を撮るだけの商品ではない。新郎側と新婦側の自宅の儀礼、レストランでの披露宴、教会での式などを、依頼する内容に応じた撮影場所として挙げている。メイク担当者、写真、動画、アルバムも、サービスの構成要素として並ぶ。WEDDINGBOOKの婚礼当日撮影の案内
同社の案内にはStandard、Premium、Signatureという区分があり、衣装のグレードや、納品されるアルバム、撮影する行程などに違いがある。前もってスタジオや屋外で作品をつくるPre-weddingと、家族の行事を当日に記録する撮影は、同じ「結婚写真」でも商品が分かれている。
たとえばStandardの当日撮影では、色調整済みの写真と編集した動画が納品物に挙げられる。Premiumの案内には、レイアウト済みのアルバムや、自宅の儀礼・教会など別の行程への対応も載る。ただし、別行程への「対応」という説明だけでは、その移動や拘束時間まで定額に含むかは確定しない。写真枚数、同行時間、納期の一律の数値も、この説明には示されていない。
同じStandardでも、スタジオの前撮りには元データ、入口に飾る写真、卓上写真、レイアウト済みアルバムが並ぶのに対し、当日撮影の項目は別に書かれている。前撮り側の納品物をそのまま当日撮影へ足すことはできない。新婦のドレスや新郎の衣装、靴、メイクまで含む案内なので、写真の枚数だけでなく、衣装と同行先、データと冊子を組み合わせて選ぶ商品になっている。
