ベトナムの引っ越しを調べてみた。トラックの初乗り、50メートルの荷運び、家具の仮住まい

ベトナム生活図鑑 第16回|引っ越し・一時保管
ベトナムの引っ越し会社の料金表には、タクシーのような「初乗り」がある。人を乗せる車ではなく、冷蔵庫や洗濯機を運ぶトラックの初乗りだ。最初の3.5キロ、そこから先の1キロ、車を待たせる1時間という単位で料金が並ぶ。一方で、荷造りから家具の設置までを頼むサービスもあり、同じ会社の中に複数の頼み方がある。
アプリで車を呼ぶ場合も、運転手が来ることと、部屋から家具を運び出してくれることは別になる。さらに、新居に入れる日より先に旧居を明け渡さなければならなければ、荷物だけが倉庫へ引っ越す。Thành Hưng、Lalamove、Saigon Express、Kho Cubeの案内をたどると、ベトナムの住まい替えを支えるサービスの境界が具体的に見えてくる。
仕事のために移る人と、家族と移る人
統計当局が2025年1月6日に発表した2024年中間人口・住宅調査の結果では、国内移住者の移動理由は仕事探し・新しい仕事の開始が39.9%、家族への同行・転居が30.5%だった。5歳以上の国内移住者のうち、20〜39歳が60.1%を占め、年齢の中央値は28歳。2024年4月1日を基準とする全国の標本調査で、若い働き手の就職や、家族に伴う移動の比重が大きいことが分かる。2024年中間人口・住宅調査・5〜6ページ
統計上の「移住」は、日常語の引っ越しと完全には重ならない。統計当局の国内移住に関する専門報告書は、5歳以上の人の調査時点と5年前の常住地を比べ、社・坊などの行政単位が異なる場合を移住として扱う。同じ行政単位の中で部屋を替える引っ越しまで、すべて数えているわけではない。国内移住報告書・13〜14ページの定義
これは調査上の国内移住の集計で、引っ越し会社の受注件数ではない。家財を自分で運んだのか、業者へ任せたのかも、この数字からは分からない。以下では有料サービスに絞り、車だけを手配する場合と、家財の梱包から頼む場合を見ていく。
「Taxi tải」は荷物を乗せるタクシー
Thành Hưngは、1996年から事業を行う運送会社だ。公式サイトでは、トラック輸送、住宅の引っ越し、オフィス移転を別々のサービスとして掲げている。ハノイの本拠地はロンビエンのCổ Linh通り、ホーチミンの拠点はAn Phú ĐôngのVườn Lài延長道路にある。両都市にはそれぞれ予約用の電話番号があり、相談の電話は24時間受け付ける。会社の公式案内
サービス名のtaxi tảiは、荷物を運ぶタクシーという理解が近い。必要な車を呼んで、指定した場所へ運んでもらう。家財一式でなくても使え、家具を一点だけ移動するときや、小さな事務所の備品をまとめて運ぶときも、車の輸送能力から選べる。
その選択肢は、単に「軽い荷物用」「重い荷物用」ではない。公式料金表では、積載重量と一緒に荷室の長さ、幅、高さ、容積が示される。冷蔵庫や棚のような物では、重量に余裕があっても、高さや奥行きが合わなければ積めないからだ。車種の説明に荷室の数字が細かく出てくるのは、生活用品を運ぶサービスらしい部分である。
ハノイの550キロ積みSuzukiは、荷室が長さ2.10メートル、幅1.30メートル、高さ1.30メートル。公式表の最初の3.5キロは17万6,000ドンで、その後15キロまでは1キロ当たり2万4,500ドン、15キロを超える部分は1万7,500ドンとなる。待機料金は1時間8万ドンだ。これは車の運賃であり、家の中の荷造りや全ての人件費を含む引っ越し総額ではない。車両別の運賃表
同じ表でもホーチミンは別建てで、490キロ積みDongbenの最初の3.5キロは18万5,000ドンになっている。両都市の表はVAT込み。都市と車種が違えば、出発時点の金額も変わる。小さなトラックの写真が同じように見えても、料金表を一行だけ拾って「ベトナムの引っ越しは約18万ドン」とは言えない。
距離制以外には8時間の貸切も載る。ハノイの550キロ車は往復90キロまで、ホーチミンの490キロ車は往復100キロまでで、いずれも140万ドン。時間と走行距離の両方に枠があり、超過分は別に計算する。荷物の積み込みで車を長く使う依頼と、短距離を一度運ぶ依頼を、同じ初乗り料金だけでは比べられない。
家を丸ごと動かす「trọn gói」
車だけではなく、荷造りと運び出しまでまとめて依頼する場合に出てくる言葉がtrọn góiだ。Thành Hưngの住宅向けサービスでは、旧居だけでなく新居も確認し、荷物の量や必要な車、作業の条件を調べて見積もる。現地確認は無料と案内されている。距離だけでなく、トラックがどこまで近づけるかも見積もりに関わる。住宅の一括引っ越しサービス
契約後は、会社側が梱包資材を用意し、荷物を包み、積み込み、新居で配置する。作業終了時には引き渡しの確認をして、残額を支払う流れだ。大きな家具がなくても、台所用品や衣類を箱詰めするところから頼みたい人には、車のサイズとは別にこの作業範囲が意味を持つ。
ただし、貴重品まで全て手放す前提ではない。同社は重要書類、不動産関係の書類、宝飾品などについて、利用者自身が携帯するよう案内している。「一括」という名称でも、荷物を任せる範囲には区切りがある。
オフィス向けの案内には、さらに具体的な荷物の組み合わせが登場する。机、書類棚、回転椅子、ソファ、書類の箱、パソコン、プリンターといった品目を挙げた参考見積もりだ。住宅と事務所は別メニューだが、どちらも「何人の職場か」「何部屋の家か」だけでなく、実際に動かす物を数える仕組みになっている。オフィス移転の案内
事務所移転では、両地点での積み下ろしを依頼する方法と、梱包材の準備や技術的な取り外し・設置まで含めて依頼する方法が分かれる。書類の入った箱を車に積む仕事と、機器や家具を使える状態へ戻す仕事は、同じ「移転」の中でも別の作業なのだ。
Lalamoveでは、車と荷運びを別々に選ぶ
Lalamoveも、ベトナム向けのサービスとして住宅やオフィスの引っ越しを案内している。注文時には集荷先と配送先を入力し、車を選び、必要な追加サービスを選択する。注文前に料金を確認でき、配達中は車の位置を追える。電話で下見を頼む引っ越し会社とは、依頼の入口が違う。バン・トラックの予約案内
車両紹介には、洗濯機、小型冷蔵庫、分解した衣装棚、折り畳める机や椅子、個人の荷物を詰めた箱が例として並ぶ。単身の部屋から別の部屋へ移るときの家財を想像しやすい。ただし、これは積載を考えるための例であり、その組み合わせなら必ず一度で運べるという保証ではない。棚を分解した状態で挙げている点も重要だ。
アプリの追加項目には、Bốc Xếp Đuôi XeとBốc Xếp Tận Nơiがある。前者は車の後ろでの積み下ろし、後者は指定した場所までの荷運びだ。2024年3月28日午前9時から適用するという運転手向け告知では、どちらも運転手と補助する人によって行い、補助者は運転手側が手配するとされる。全国のバン、ピックアップ、トラックの運転手を対象にした変更だった。追加サービスの定義
車の後ろでの作業を選んだ場合、地面から荷台へ、または荷台から地面へ運ぶところが対象になる。住宅の上階から冷蔵庫を降ろす作業まで自動的についてくるわけではない。荷物を路上まで出せる人と、室内からの運び出しを頼みたい人では、選ぶ項目が変わる。
指定場所への荷運びにも範囲がある。公式の引っ越しページでは、車からの距離は50メートル未満、階段などで運ぶ階は1階分、またはエレベーターなどを使ってあらかじめ合意した階までという条件を示している。荷役サービスは配送先が一つの注文に限られる。引っ越し向け荷役の条件
同ページの荷役料金は車種により43万2,000〜75万6,000ドンと表示されているが、これも車の運賃とは別の追加サービスの金額だ。家具の分解、エアコンや電気機器の取り外しといった技術作業は含まれない。運転手が来た後で棚を解体してもらう前提ではなく、必要な取り外しは先に済ませる設計になっている。
台車などの道具も、全ての車に同じ物が積まれているわけではないと案内される。荷役を付けない注文については、運転手は荷物と車の安全を保てるよう、利用者の積み下ろしを案内する立場になる。運転手が家財を部屋から運び出す契約とは違う。さらに予約案内のFAQは、交通状況、荷物の寸法、受注できる運転手、通行料などで価格が変わり、注文内容を変えれば表示額も変わりうると説明している。
路地、地下駐車場、集合住宅のエレベーター
Saigon Expressの集合住宅向け料金表には、ベトナムの住まいの形がそのまま項目になっている。階段で運ぶ場合、狭い路地へ引いていく場合、マンションの地下へ運ぶ場合をそれぞれ別に掲げている。追加料金は荷物の量、階数、路地や地下で運ぶ距離によって決まる。集合住宅向けの料金・作業範囲
2025年7月4日更新のこの表では、段ボール箱は60×40×35センチで1箱2万ドン。エアコンの作業代は取り外し10万ドン、取り付け20万ドンという参考額が載る。部材や現場条件による費用まで含む一律の完成価格ではなく、表自体も税別の参考料金とされている。
マンション向けの説明には、共用廊下やエレベーターの保護、管理側のルールに合わせた搬出入、地下の高さに合った車両の選定もある。住戸の玄関からトラックまでの間に、建物の共有部分がいくつも挟まる。移動距離が近い引っ越しでも、荷物を車に載せるまでの仕事が小さくなるとは限らない。
家具だけ先に預ける「kho mini」
新居の工事が終わっていない、家を修繕する、しばらく海外へ行く。そんな期間に、家具や私物を預けるサービスがkho miniだ。Saigon Expressの倉庫案内では、企業の商品だけでなく家庭の荷物も対象にしており、共同の保管スペースと、鍵を持って使う個別区画の両方を用意している。家庭用品も扱う倉庫サービス
預かる品物にはバーコードを付け、写真を記録し、システム上で管理するという。小さな品物は段ボールや緩衝材で、大きな設備や家具は保護材などで包んで収納する。個室を借りるだけでなく、物を受け入れ、記録し、保管し、出庫する仕事が組み込まれている。
同社の2025年7月4日更新のホーチミン向け料金表では、一般の荷物を棚で保管する料金が1立方メートル当たり月13万ドン。入庫・出庫の荷役費用は、両方をまとめて1立方メートル当たり5万ドンを入庫時に一度徴収する。こちらは床面積ではなく、荷物が占める体積で計算する方式だ。容積単位の保管料金
同じ表には、温度20〜25度、湿度45〜50%とする空調保管の欄もあり、料金は1立方メートル当たり月25万ドンとなっている。表の金額はVATと輸送・配送費を含まない。出入庫の管理や月次在庫報告の費用も、荷物の性質や出し入れの頻度に応じて別途合意するとある。月額の保管料だけで、旧居から運び込み、最後に新居へ届けるまでの費用が完結するわけではない。
SECの個室倉庫は8平方メートルで月200万ドン
Saigon Expressのグループサイトが2026年9月10日に更新したミニ倉庫の案内では、1平方メートルの私物用区画、6平方メートルからの区画型倉庫、空調付きの区画が紹介されている。利用期間は半月から。引っ越し途中の家具だけでなく、テトの飾り、季節物の服、コレクションや記念品も保管例に挙がる。SECのミニ倉庫
このページの常温タイプの月額表では、8平方メートルが200万ドン、9平方メートルが220万ドン、10平方メートルが250万ドン。区画の高さは2.5〜2.7メートルとされ、場所によって見積額は変わる。個別の入口と仕切りがあり、利用者が自分の鍵を持つ方式だ。
ただし、先ほどの2025年7月更新の別表には、個室8平方メートルは月190万ドン、9平方メートルは210万ドンと載っている。2026年9月のSECの表とは金額が異なる。更新日の新旧は分かるが、一律の値上げなのか、対象施設や条件が違うのかは両ページだけでは確定できない。ここで紹介する200万ドンは、SECの当該ページの掲載額である。
体積単位の共同保管と個室は、引き渡し方も違う。共同保管では業者が荷物の写真とバーコードを管理し、個室では利用者が専用区画の鍵を持つ。箱をいくつか預けるのか、家具と家電をまとめて置くのかに加え、自分で区画を管理したいのかによっても使い方が変わる。
Kho Cubeには、1.5平方メートルからの区画がある
ホーチミンのTân Thuậnには、別の運営会社によるKho Cubeもある。所在地はタントゥアン輸出加工区の北側商業エリア、N3通りのD1・D2区画。公式サイトは、英国のEdward Baden Groupが設立したCube Self Storageのブランドとして紹介している。Kho Cubeの施設案内
同社の自主管理型倉庫は1.5平方メートルからで、専用の鍵があり、空調付きの区画も扱う。共同倉庫では、家具や設備、大きな荷物を預けられる。最短契約は1か月と案内されており、半月からというSECの案内とは異なる。
施設案内には、月曜から土曜は8時〜17時、日曜は9時〜12時という営業時間が掲載されている。監視カメラが24時間動いていることと、窓口が一日中開いていることは別である。この営業時間の記載だけで、すべての契約の入出庫可能時間まで決めつけることもできない。
契約の相談はウェブだけでなく、Zalo、WhatsApp、Messengerからも受け付ける。荷物を戻す際には、会社へ連絡して輸送を手配する流れも示されている。家と倉庫を自分で往復するだけでなく、搬入と返送を組み合わせた使い方が案内されているわけだ。利用の流れ
鍵については、自分で用意した錠前を使うことも、施設で新しく買うこともできる。区画のサイズは必要に応じて変更できるとされる。長期間同じ部屋を借り続けるだけでなく、残す荷物が減った段階で小さな区画へ移る余地もある。専用の空間を借りる方式ならではの細かな仕組みだ。
荷物を動かす日と、「家に入る日」
引っ越し会社のサイトを読むと、運賃や段ボールの話の隣に、日取りの記事が出てくる。Thành Hưngは2026年3月、住宅やオフィスを移る際の吉日選びを掲載した。そこでは、新居に入るnhập trạchという習慣と、家の主の生年や五行、吉時をもとに日を選ぶ考え方を紹介している。同社の日取りに関する記事
この会社が顧客向けに紹介する風習で、全家庭の実践を調べた資料ではない。車を予約するサイトの中に、家財を運ぶ手順だけでなく、新しい暮らしを始める日の解説も置かれている。
別の入居案内では、最初に家へ入るときの品物として、家の主が持つ祭壇や祖先の位牌、家族が持つ寝ござ、塩、米などを挙げている。火を暮らしの温かさ、塩や米を食の充足に結び付けて説明する、象徴的な持ち物だ。新居へ入る際の風習を扱う記事
出典・確認:各社公式サイトのサービス条件・料金表を2026年9月に確認。料金は本文に記したサービス・地域・条件に限られ、見積もりや予約時に変わる場合があります。
