農家に相場の2倍を払う|La Vietがベトナム珈琲を「安い原料」から救う道

ベトナムは、ブラジルに次ぐ世界第2位のコーヒー生産国です。ところが、その生産量の9割ほどは、加工されないまま「安い原料」として海外へ出ていきます。しかも大半が、香りより量で稼ぐロブスタ種。そんな構造のなかで、あえて逆を行く一社があります。ダラットの高原で、農家に相場の2倍を払ってアラビカを育て、農園から一杯まですべてを自分たちで握るロースター、「La Việt(ラヴィエット)」です。
安く流れていく一次産品を、産地で価値化して届ける。これは、うまみ企画が珈琲で挑んでいる領域そのものです。ホーチミンに常駐して珈琲・農作物の現地取引を手がける立場から、La Vietがこの構造にどう抗っているのかを分解します。
La Vietとは——「農園から一杯まで」を握るダラットのロースター

La Vietは、ラムドン省ダラットを拠点とするスペシャルティコーヒーのロースターです。2015年前後に立ち上がり(法人登記は2013年)、創業者はチャン・ニャット・クアン氏。ダラット高原のアラビカの可能性に惚れ込み、栽培から精製・焙煎・抽出・提供までを一貫して品質管理する道を選びました。ブランド名の「La Việt」には「これがベトナムだ(It is Vietnam)」の意が込められています。ダラット本店にはガラス張りのロースタリーとカッピングルームを併設し、コーヒー愛好家の「巡礼地」とも呼ばれます。
世界2位なのに「安い原料」——ベトナム珈琲の構造
まず、La Vietが挑む相手=業界の構造を押さえておきます。ベトナムはロブスタ種では世界最大の生産国ですが、生産量の95%以上がそのロブスタで、多くが未加工のまま低価格で輸出されます。加工・乾燥設備や収穫技術が十分でない産地も多く、品質が価格に結びつきにくい。現場では「99トンのロブスタに1トンの不純物を混ぜるほうが、100トンの高品質アラビカを作るより簡単で儲かる」とすら語られます。量と安さの土俵で回ってきた市場なのです。
La Vietは、この土俵から降りました。量ではなく質、ロブスタではなくアラビカ、未加工輸出ではなく自社での一貫加工。ベトナムに芽生えつつある「少数派のスペシャルティ運動」を、産地で体現する存在です。
農家に、相場の2倍を払う
La Vietの最も象徴的な一手が、農家への支払いです。創業者はこう語っています。「昨年の相場は1kgあたり6,000ドン(約28米セント)だった。だが、ボルボン種のアラビカを育ててくれる農家には、1kgあたり12,000ドンを払った」。相場の、ちょうど2倍です。さらに、品質を底上げするために有機農薬を無償で提供し、少数民族コホ(K’Ho)族の生産者と直接取引しています。
ポイント:高く買うから、良いものが集まる
相場の2倍という価格は、単なる善意ではありません。良い豆を安定して確保するための投資です。手間のかかる完熟チェリーの手摘みや丁寧な精製に、農家が応じる理由をつくる。安く買い叩く関係では、品質は上がりません。「原料をいくらで買うか」は、そのまま「どんな品質を手に入れられるか」を決めます。
農園から一杯まで、自分で握る
高く買った良い豆を、La Vietは自分たちの手で仕上げます。完熟チェリーを手摘みし、その日のうちに処理する。乾燥精製の設備はガラス張りにして、来店客が加工の工程を見られるようにしています。焙煎、カッピングによる品質確認、そしてカフェでの抽出まで、すべてを社内に持つ。植民地期から根づくボルボン・ティピカといった在来品種のアラビカを扱い、カティモールが専門家に82点と評価された例もあります。
創業者の言葉が、この姿勢を言い表しています。「良いコーヒーに秘密はない。農園からカップまで、すべての工程を、技術と、丁寧さと、感覚をもって行うこと以外には」。垂直統合は効率のためではなく、品質を一貫して守り切るための選択なのです。
100年前からの産地——カウダットの蓄積
La Vietが豆を仕入れる産地のひとつ、カウダット(Cầu Đất)には、深い歴史があります。フランス資本が1920年代にこの一帯で茶とアラビカの栽培を始め、1927年には茶工場を建てました。標高1,600m前後の高地は、良質なアラビカを育てる条件を備えています。La Vietの挑戦は、この100年近い産地の蓄積の上に成り立っているのです。
小さいがゆえの、これから
もちろん、順風だけではありません。高品質アラビカは手間もコストもかかり、量と安さで回る市場のなかでは「儲けにくい」道です。La Viet自身も、アラビカの作付面積はまだ小さく、高付加価値化の途上にあります。農家に高値を払い、無償で農薬を提供するコストも、規模が小さいうちは重い。それでも、相場の2倍という価格を払い続けられるだけの出口(スペシャルティとしての販路)を、少しずつ広げているところです。
La Vietに学ぶ——なぜ「高く買う」ほうが強いのか
La Vietの一手は、「原料に、相場より高く払う」ことです。逆説的ですが、安く買い叩くのをやめた瞬間に、良い品質が集まり始めます。そのうえで農園から一杯までを自分で握れば、払った原価を上回る価値を、自分たちの側に積み上げられる。ベトナムの珈琲や農作物を「安いから」という理由だけで扱うと、この好循環には入れません。
これは、うまみ企画が珈琲の現地直結取引(UMAMI ORIGIN)で大事にしている考え方と、まっすぐ重なります。どの品質の豆を、どんな関係で、いくらで仕入れ、どこまで自分たちで仕上げるか。この設計を、小ロットのサンプルから一緒に組み立てていくのが私たちの役割です。安く買うことではなく、良いものを続けて手に入れる仕組みをつくることに、価値があります。
よくある質問

La Vietの強みは、どこにありますか?
農家に相場の2倍を払って良質なアラビカを確保し、農園から一杯まで(栽培・精製・焙煎・抽出)を自社で一貫管理していることです。安さで回るベトナム珈琲市場のなかで、質で勝負する少数派の代表格になっています。
ベトナム産の珈琲は、安いだけではないのですか?
大半は低価格のロブスタですが、ダラットなどの高地では良質なアラビカも育ちます。La Vietのように、産地で丁寧に加工すればスペシャルティとして通用します。「安い原料」という見方の裏に、高付加価値化の余地が残っている市場です。
良い豆を安定して仕入れるには、どうすればよいですか?
まず、安く買い叩かないことです。La Vietのように品質に見合う価格を払い、農家と直接の関係を築くと、良い豆が集まりやすくなります。そのうえで、どこまで自分たちで加工するかを設計する。小ロットの取引から関係を育てるのが現実的な第一歩です。
その商品の価値、お客様に伝わっていますか?
「いい商品なのに売れない」——その原因の整理からお手伝いしています。食品の現場を知る私たちが、御社の売り方を一緒に見直します。まずは現状を聞かせてください。
