資金繰りが3か月先しか見えないと、値上げも採用もできなくなる

資金繰りが3か月先しか見えないと、値上げも採用もできなくなるの要点を整理した図

資金繰りの相談は、たいてい「お金が足りない」という形で持ち込まれます。ただ話を聞いていくと、足りないこと自体より、いつ足りなくなるか分かっていないことのほうが判断を狂わせています。

見通しが3か月しかない状態では、半年後に効く手を打てません。打てないまま3か月が過ぎて、また3か月先だけを見ることになります。

自社の位置を数字で確かめる
資金繰りが何か月先まで見えているかを、他の3つのリスクとあわせて判定します。 経営フェーズ診断(14問・約3分)|入力した金額は送信していません。
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資金の悩みは、開業時より減るが消えない

資金繰りが3か月先しか見えないと、値上げも採用もできなくなるで押さえる3つの視点

日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査は、同公庫が融資した開業1年以内の企業を対象に、2,165社から回答を得たものです。開業時と現在で、苦労していることがどう変わるかを聞いています。

開業時と現在の比較

苦労していること開業時現在
資金繰り、資金調達56.9%36.2%
顧客・販路の開拓49.9%48.8%
財務・税務・法務に関する知識の不足36.4%—
日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」より。三つまでの複数回答。開業時と比べ、現在は従業員の確保・人材育成の割合が上昇している。

資金の悩みは56.9%から36.2%へ下がります。ただし回答企業の3社に1社は今も抱えています。開業から平均15.5か月が経過した時点での数字です。なおこの調査の対象は日本公庫国民生活事業が融資した開業1年以内の企業で、回答は2,165社(回収率25.4%)。既存の企業や中小企業全体には広げられません。

赤字であること自体は、多数派

  • 令和6年度の全法人299万9,680社のうち、欠損法人は180万7,925社で60.3%
  • 繰越欠損金の翌期繰越額は75兆4,819億円。過去の赤字は将来の黒字と相殺できる制度がある
  • 会社が止まるのは赤字になったときではなく、支払いに充てる現金がなくなったとき

赤字と資金ショートは別の現象です。この切り分けは日本の法人の6割は赤字で詳しく書きました。損益を見なくていいという話ではありません。利益が出ていなければいずれ現金も尽きます。損益に加えて、現金の時間軸も見る必要があるということです。

見通しの長さで、選べる手が変わる

資金繰り表が何か月分あるかで、打てる手の範囲が決まります。金額の多寡とは別の話です。

3か月・6か月・12か月で何が違うか

見通しできることできないこと
3か月未満目先の支払いを回す値上げ交渉/採用/設備投資/取引先の入れ替え
3〜6か月季節変動への備え、短期の借入相談採用と育成(戦力化まで半年以上かかるため)
6〜12か月採用、値上げ交渉、設備投資の検討複数年にわたる投資判断
12か月以上事業構造そのものの組み替え—
資金繰り表の期間と、その期間で判断できる打ち手の対応。

値上げ交渉は、切り出してから価格が変わるまで数か月かかることが多く、採用は募集から戦力になるまで半年程度を見ておく必要があります。見通しがその期間より短いと、着手の判断が難しくなります。手元資金に厚みがある、確定受注がある、といった条件があれば短い見通しでも動けるので、ここは絶対的な制約ではなく傾向として読んでください。上の表もその前提で作った整理です。

結果として、3か月しか見えていない会社は、条件の悪いほうを選び続けることになります。値上げを言い出せないまま単価が据え置かれ、人が採れないまま社長の稼働が増える。それがまた見通しを短くします。取引先が1社に寄っていると、この悪循環はさらに抜けにくくなります(1社依存は悪か)。価格を通せているかどうかの全体像は価格転嫁率53.5%で確認できます。

12か月分をつくるのに要るもの

資金繰りが3か月先しか見えないと、値上げも採用もできなくなるを実務に落とす3つのステップ

資金繰り表は会計ソフトの出力ではありません。入金と出金を、日付の入った予定として並べたものです。

  1. 入金の予定/請求済みで未入金のもの、受注済みで未請求のもの、見込みのもの。この3つを分けて置く
  2. 固定の出金/人件費・家賃・借入返済・リース・保険・税金。金額と支払日が決まっているもの
  3. 変動の出金/仕入・外注。売上に連動するので、入金の予定と紐づけて置く
  4. 季節の山と谷/賞与・納税・年払いの保険。ここを落とすと12か月表は当たらない

最初から精度を求めないほうが続きます。3か月先までは実額に近く、それ以降は粗くていい。粗くても、いつ谷が来るかが見えていれば判断はできます。従業者4人以下の事業所が全国の46.1%を占めることを考えれば、専任の経理がいない前提で作れる粒度に留めるのが現実的です(1〜4人の事業所が46.1%)。

先に決めておくと楽になること

  • いくつを下回ったら動くか/残高の下限を先に決めておくと、判断が感情から切り離される
  • 誰に相談するか/金融機関への相談は、資金が減ってからより見通しがあるうちのほうが条件がいい
  • 更新の頻度/月1回、日を決めて更新する。作って放置すると3か月で使えなくなる

経営フェーズ診断では、資金繰りが何か月先まで見えているかを4区分で聞いて、3段階で判定しています。この区分は上に書いた実務上の目安をもとに当社が設定したもので、公的統計が検証した基準ではありません。取引先の集中・価格の決定力・事業の属人性とあわせて、いまどこから手をつけるかの整理に使ってください。

よくある質問

資金繰り表は何か月分つくるべきですか

12か月分をおすすめします。値上げ交渉は反映まで数か月、採用は戦力化まで半年程度かかるため、見通しがその期間より短いと着手の判断ができないためです。3か月先までは実額に近く、それ以降は粗い見込みで構いません。

赤字だとすぐ資金が尽きますか

別の現象です。令和6年度は全法人の60.3%が欠損法人ですが、多くは事業を続けています。減価償却費のように現金が出ていかない費用もあり、会社が止まるのは支払いに充てる現金がなくなったときです。

開業してどのくらい資金の悩みが続きますか

日本政策金融公庫の調査では、開業時に「資金繰り、資金調達」で苦労した割合が56.9%、開業から平均15.5か月時点の現在も36.2%が挙げています。ただしこの調査は同公庫の融資先が母集団です。

金融機関にはいつ相談すべきですか

資金が減ってからより、見通しがあるうちのほうが条件が整いやすくなります。資金繰り表があること自体が、返済計画の裏付けとして機能します。

その商品の価値、お客様に伝わっていますか?

「いい商品なのに売れない」——その原因の整理からお手伝いしています。食品の現場を知る私たちが、御社の売り方を一緒に見直します。まずは現状を聞かせてください。

まとめ

  • 資金繰りの悩みは開業時56.9%から現在36.2%へ下がるが、回答企業の3社に1社は今も抱えている(日本公庫の融資先が母集団)
  • 法人の60.3%は赤字。会社が止まるのは赤字になったときではなく現金がなくなったとき
  • 見通しが3か月未満だと、値上げ交渉も採用も設備投資も着手の判断ができない
  • 値上げは反映まで数か月、採用は戦力化まで半年。見通しがその期間より短いと選択肢から消える
  • 12か月表は粗くていい。いつ谷が来るかが見えていれば判断はできる
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この記事を書いた人

小島 怜のアバター 小島 怜 うまみ企画 CEO

株式会社Agriture CEO/乾燥野菜やドライフルーツを中心とした受託加工・OEM事業。京都府内の農家と連携し、規格外野菜の活用や6次産業化支援を通じて、「持続可能な食の流通」を追求している。製造現場での豊富な実体験を活かし、商品企画から試作、小ロット対応、パッケージ設計、販路開拓支援まで、OEMを検討するすべての事業者に伴走するサポートを提供。

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