ベトナムはなぜ屋台までQR払い?支払い方法を在住者が徹底解説

ホーチミンで暮らしていると、バインミーの屋台やコーヒースタンドの支払いまで、スマホでQRを読むだけで終わります。財布に小銭はほとんど入っていません。ベトナムの決済は、この10年でキャッシュレス化が一気に進みました。銀行間の送金が無料・即時で、しかも銀行アプリのQRで店頭決済まで完結する。この2点で、日本より先に「現金を持ち歩かない生活」が普通になっています。
その中身は日本の「◯◯ペイを入れる」という発想とはかなり違います。ベトナムのキャッシュレスの主役は、専用の決済アプリではなく「自分の銀行アプリで読むQR送金」です。この構造を知らずに進出すると、BtoC決済の組み立てでも、仕入れの支払いでも判断を誤ります。
この記事では、ベトナムの支払い方法を「現金・銀行振込・カード・QR/電子ウォレット」に分け、各QR事業者の違いや、進出企業がBtoC決済を受ける選択肢まで解説します。銀行そのものの選び方はベトナムの銀行の種類と主要行の解説記事にまとめています。
数字で見るキャッシュレス化:5年でQRが急伸

ベトナムは政府主導でキャッシュレス化を急速に進めてきました。ベトナム国家銀行(SBV)系の統計によれば、2025年のキャッシュレス決済総額はGDPの約28倍に達し、2030年の政府目標(30倍)を前倒しでほぼ達成しています。過去5年(2021〜2025)の平均で、非現金取引は件数が年約59%増、金額が年約24%増。とりわけQR取引は件数・金額とも年100%超という桁違いの伸びでした。
逆に減っているのが現金です。SBVの集計では、2025年にATM取引が件数で約17%減少し、「現金を下ろす」行為そのものが目に見えて減りました。若い人口とスマホ普及率の高さが、この一足飛びのキャッシュレス化を支えています。
現金:硬貨がほぼ流通しない国
キャッシュレスが進んでも、地方や屋台では現金がまだ現役です。ここで日本人が驚くのが、ベトナムには流通している硬貨がほぼ存在しないことです。
紙幣の種類と「最高額50万ドン」
通貨はベトナムドン(VND、₫)。2003年から導入されたポリマー紙幣(50万〜1万ドン)と、低額面のコットン紙幣(5,000〜200ドン)が使われます。2003年に一度は硬貨も導入されましたが不評で、2011年に発行を停止。以来、実務上は紙幣だけが流通しています。
最高額紙幣は50万ドン。日本円にしておよそ3,000円弱(為替により変動)です。桁が大きく、ゼロの数を数え間違えやすいので、慣れるまでは支払い時に注意が必要です。
| 種類 | 額面 |
|---|---|
| ポリマー紙幣 | 500,000/200,000/100,000/50,000/20,000/10,000ドン |
| コットン紙幣(低額面) | 5,000/2,000/1,000/500/200ドン |
| 硬貨 | 2011年に発行停止・ほぼ流通なし |
両替・ATM・チップで押さえる点
- 両替:空港・銀行・金行(宝飾店)・両替商で可能。金行系はレートが良いとされる。
- ATM:外国発行カード(Visa/Mastercard/JCB)でも引き出せるが、1回の引出上限が低めで、現地銀行のATM手数料が上乗せされることが多い。
- チップ:義務的なチップ文化は基本的にない。高級ホテルやレストランはサービス料込みのことが多い。
キャッシュレスが進んだ今も、屋台や地方向けに少額の現金を併用しておくのが実務的です。
ベトナム決済の本丸:銀行振込・送金文化
ベトナムの決済を理解する鍵は、じつはQRアプリより先に「銀行アプリ間の送金」にあります。友人との割り勘、家賃、商店での支払いまで、「相手の口座に銀行アプリから直接送金する」のが日常の風景です。
これを支えるのがNapas 247。ベトナム唯一の国内決済スイッチ(NAPAS)が運営する、24時間365日の即時銀行間送金の基盤です。NAPASの公表では、2024年に約89億件の即時送金を処理し、1日あたり2,400万件を超えました。しかも大手商業銀行の多くが個人の銀行間即時送金を無料化しています。「送金が即時・無料」という土台があったからこそ、QR払いが屋台まで一気に広がりました。
用語メモ:NAPASとVNPayは別物
名前が似ていて混同されがちですが、NAPASは国が作った決済インフラ(銀行間送金とQR標準の土台)、VNPayは加盟店網を持つ民間の決済企業です。後述のVietQRはNAPASが運営する統一QRの規格名。この3つを分けて読むと、以降の説明がすっきり入ります。
カード決済:デビット主流、クレカは少数派
カードも使えますが、日本とは主役が違います。ベトナムのカード決済は、クレジットカードではなく口座直結のデビット(ATMカード)が中心です。
国内スキームNapasと国際カード
NAPASはベトナムの国内決済インフラで、国内ATM/カードスイッチ、Napas 247即時送金、そして後述のVietQR標準を運営する中核です。国内銀行が発行するNapasブランドのデビットカードは、国内の加盟店・ATMで相互に使え、磁気からチップカードへの置き換えが進んでいます。業界集計では、発行済みの銀行カードは1.38億枚超、加盟店拠点は約180万に達します。
国際カード(Visa/Mastercard/JCB/Amex)は、中〜高級ホテル、大型レストラン、ショッピングモール、コンビニなどで使えます。一方、屋台・小さなカフェ・市場・個人商店ではQRか現金が中心です。伸びが著しいのがコンタクトレスで、Visaの発表では2024年11月末時点で対面取引の75%超が非接触。ベトナムはアジア太平洋で非接触決済の伸びがトップとされ、Apple Pay/Google Pay/Samsung Payも使えます。
クレカ保有率の低さとBNPLの台頭
クレジットカードの保有率は、人口比で5〜6%程度とされます(母数の取り方や出典で幅があります)。いずれにせよ、ベトナムはカードの普及段階を飛び越えて、デビットとQR、そして後払い(BNPL)へ一足飛びに進みました。BNPL市場は2025年に前年比+36.5%成長で約26億USD規模へ拡大し、AtomeやKredivoといった事業者が若年・テック層を取り込んでいます。「分割で買う」が新しい選択肢として広がっています。
QRコード決済・電子ウォレット(各社を詳しく)
ベトナム決済の主役、QRに入ります。ここで日本人がまず理解すべきは、「QR=◯◯ペイのアプリ」ではないという点です。
VietQR:1枚のQRで、どの銀行アプリからでも払える
VietQRは、NAPASが運営するベトナム統一のQR標準です(2021〜2022年に立ち上げ)。ポイントは相互運用性。1枚のVietQRコードに対して、加盟する各銀行のアプリや主要ウォレット(MoMo・ZaloPayなど)から支払いや送金ができます。消費者は、特定の決済アプリを持っていなくても、自分の銀行アプリでQRを読めば払えるのです。
- 静的QR(印刷):店頭に貼られた紙のQR。客が金額を手入力する。屋台や個人商店で多用される。
- 動的QR(POS表示):金額が入った状態で表示され、客は確認してスキャンするだけ。誤入力を防げる。
ホーチミンの市場では、魚売りや野菜売りの台にも、紙に印刷したVietQRが当たり前のように貼られています。数千ドンの買い物でも銀行アプリでスキャンして払う光景は、もはや珍しくありません。銀行口座さえあれば誰でも参加できる相互運用QRが、ベトナム決済の背骨です。
スーパーアプリ5社、狙う客がそれぞれ違う
そのうえで、送金・EC・公共料金・ミニアプリなどを束ねる「スーパーアプリ」として、複数の電子ウォレットが競っています。各社の性格を順に見ていきます。
MoMo(最大手・スーパーアプリ)
ベトナムの電子ウォレット最大手。各社推計で2025年時点の利用者は3,100万人超、モバイル決済取引でシェア最大(概ね過半)とされます。送金・割り勘、公共料金や通信費の支払い、EC・ゲーム課金、配車や映画などのミニアプリ、さらに少額ローン・分割・保険・投資まで広げるスーパーアプリ戦略が特徴。50を超える銀行・金融機関と提携し、2021年にはユニコーン(評価額10億USD)入りしました。都市部での存在感がとくに強いブランドです。
ZaloPay(VNG系・チャット連動)
国内2位。2017年にVNGがローンチしました。強みは、ベトナム人の約85%・月間約8,000万人が使うチャットアプリ「Zalo」への統合です。チャット画面からそのまま送金・請求書払い・EC決済ができ、日本でいえばLINEで送金する感覚が国民的に普及しています。公式アカウントやミニアプリと組み合わせてBtoCの導線を作りやすいのも特徴です。
VNPay/VNPay-QR(銀行アプリ埋め込み型の雄)
自社ウォレットの普及より、「銀行アプリ×加盟店網」でボリュームを取るB2B2C型。多数の銀行アプリのQR決済機能の裏側を担い、約15万のPOS・加盟拠点に即時決済を提供するユニコーンです。2025年には国際旅行者向けアプリも投入し、パスポート+国際電話番号で登録してVisa/Master/JCBを紐付けたQR払いができるようになりました。旅行者・出張者にとっての現実解になりつつあります。
ViettelMoney(地方・農村に強い)
国営通信最大手Viettelの系列。Viettelの全国流通網を背景に、都市部だけでなく、他ウォレットが届きにくい農村・準都市までカバーします。通信キャリア基盤の「モバイルマネー」(銀行口座がなくても携帯番号で少額決済できる仕組み)と、フル機能のViettelMoneyを提供し、金融包摂の主役を担っています。
ShopeePay・Grab(EC/配車まわりの決済)

ShopeePayは旧AirPayが2021年に改称したもので、EC最大手Shopeeとフードデリバリーの中で決済を伸ばしています。一方、配車のGrabは注目すべき動きをとりました。自社ウォレット「Moca」を2024年7月に終了し、以後はGrab内でMoMo・ZaloPay・銀行カードを決済手段として提供しています。垂直統合を畳んで外部大手に開放した、逆張りの事例です。
| 事業者 | 系列 | 規模の目安(2025) | 強み・主用途 |
|---|---|---|---|
| MoMo | 独立系 | 利用者3,100万人超 | 総合スーパーアプリ(送金/店頭/EC/金融) |
| ZaloPay | VNG | 指標により約2,000万〜7,000万 | チャット連動送金・請求書・EC |
| VNPay | 独立系 | 加盟店約15万拠点 | 銀行アプリ埋込QR・加盟店網 |
| ViettelMoney | Viettel(国営通信) | 上位5社の一角 | 農村・地方・モバイルマネー |
| ShopeePay | Sea/Shopee | 上位5社の一角 | EC内決済・フードデリバリー |
モバイルマネー:銀行口座を持たない層の財布
ウォレットとは別に、通信キャリア主導の「モバイルマネー」という制度があります。銀行口座を持たない層向けに、携帯電話番号(通信残高)を口座代わりにして少額決済ができる仕組みで、Viettel・VNPT・MobiFoneがSBV認可でパイロット運用しています。VietnamNetの報道では、2024年時点で利用者は960万人超、そのうち約72%が農村・山間・遠隔地。銀行口座の普及が届かない地域での金融包摂を担う存在です。
進出企業の視点:BtoC決済をどう受けるか
ここまでを踏まえ、日本企業が現地で「払う・受け取る」ときの実務論点を整理します。食品や物販でBtoCをやるなら、決済インフラの組み立ては売上に直結します。
加盟店になるのは驚くほど簡単
VietQRの威力は、店側の導入ハードルの低さにあらわれます。銀行口座に紐づくVietQRを掲示するだけで、客の銀行アプリやウォレットから即時に着金し、POS端末すら要りません。しかも銀行間QR/送金は手数料が実質ゼロに近く、カード加盟店手数料(数%)を嫌う零細事業者でも導入できます。だからこそスーパーからカフェ、屋台、市場、タクシーまで受容が広がりました。
日本企業がBtoC決済を受ける選択肢
| 手段 | 特徴 | 向く事業者 |
|---|---|---|
| PSP・アグリゲータ経由(VNPay/MoMoPay/ZaloPayなど) | 加盟店契約でVietQR+主要ウォレット+カードをまとめて受けられる | 複数チャネルを一括で受けたい店舗・EC |
| 銀行のVietQR加盟店化 | 現地法人口座+VietQR掲示で低コストに開始。POS端末不要 | 小規模・実店舗 |
| ECモール(Shopee/Lazada) | ShopeePayやCOD(代引き)が標準。CODはいまも影響力大 | モール出店のEC事業者 |
| 越境QR(VietQR Global) | 中国人観光客がAlipayでVietQRを読める。インバウンド需要を取り込める | 訪越客向けの物販・飲食 |
見落としがちな税務の落とし穴:VATと非現金決済
進出企業がとくに注意したいのが、2025年7月施行のDecree 181/2025による変更です。仕入税額控除(VAT控除)に「非現金決済の証憑」が必要になる基準額が、従来の2,000万ドン(およそ11万円)から500万ドン(およそ3万円弱)へ大幅に引き下げられました。
つまり税込500万ドン以上の仕入れや外注を現金で払うと、VAT控除ができず実質的な増税になります。しかも「売り手口座への現金入金」は非現金決済に該当しません。サプライヤーや外注への支払いは、振込・カード・ウォレットなど証憑が残る形に統一する運用が必要です。現金商売の慣行が残る相手ほど、要注意の論点です。金額のしきい値や条番号は改正が速いため、実際の運用は現地の会計・法律事務所に確認してください。
決済インフラの組み立てや、仕入れ・給与の支払いフローの設計でつまずく企業は少なくありません。この領域は当社のベトナム進出支援(BRIDGE)で伴走しています。食品を軸に進出を検討している場合は、ベトナムコーヒーメディアもあわせてご覧ください。
その商品の価値、お客様に伝わっていますか?
「いい商品なのに売れない」——その原因の整理からお手伝いしています。食品の現場を知る私たちが、御社の売り方を一緒に見直します。まずは現状を聞かせてください。
まとめ:主役は「銀行アプリのQR」
ベトナムの支払い方法は、現金・カード・QRの勢力図が日本と大きく異なります。硬貨はほぼなく、クレカ保有率は低いまま、主役は専用アプリではなく銀行アプリで読むVietQR。即時・無料の銀行間送金という土台の上に、屋台までQRが広がりました。進出企業にとっては、加盟店化の容易さと、VATの非現金決済ルールという税務論点の両方をおさえることが出発点になります。
決済の前提として、どの銀行で口座を持つかも重要です。銀行の選び方はベトナムの銀行の種類と主要行の解説記事で、進出時の資本金口座(DICA)まで解説しています。進出前の資金・決済・送金の段取りをまとめて相談したい場合は、無料診断もご利用ください。
また、旅行や出張で現地を実際に使うときの手順は、ベトナム旅行メディアの記事「ベトナムでクレジットカードが使える場所と注意点」も参考になります。
よくある質問
ベトナムでは現金とキャッシュレスのどちらが必要ですか?
都市部はQRと銀行アプリでほぼ完結しますが、屋台や地方向けに少額の現金を併用するのが実務的です。ベトナムには流通する硬貨がほぼなく、最高額紙幣は50万ドン(日本円でおよそ3,000円弱)です。
ベトナムのQR決済は日本の「◯◯ペイ」と何が違いますか?
主役が専用アプリではなく「銀行アプリで読むVietQR」である点です。NAPASが運営する統一QRで、加盟する各銀行アプリや主要ウォレットから1枚のQRで支払えます。銀行間送金が即時・実質無料なことが普及を後押ししました。
旅行者や出張者もベトナムのQRアプリを使えますか?
MoMoやZaloPayは現地の銀行口座や国民IDが必要で、短期滞在者には不向きです。2025年にVNPayが旅行者向け対応を投入し、パスポート+国際電話番号で登録して国際カードを紐付けたQR払いができるようになりました。
日本企業が現地でBtoC決済を受けるには?
VNPay・MoMo・ZaloPayなどと加盟店契約すれば、VietQR+主要ウォレット+カードをまとめて受けられます。銀行口座+VietQR掲示なら小規模でも低コストで始められます。税込500万ドン以上の仕入れ・外注は非現金決済でないとVAT控除できない点にも注意が必要です。
