価格転嫁率53.5%。上がったコストの半分は、いまも自社が飲んでいる

中小企業庁が受注側の中小企業30万社に配布し、69,988社が回答した調査で、2025年9月時点の価格転嫁率は53.5%でした。以下の数字はこの回答企業のものであり、発注側企業や大企業は含みません。コストが100上がったとき、価格に乗せられたのは平均53.5。残りの46.5は自社の利益から出ています。
「値上げできていない」は感覚の問題ではなく、半分は業界の標準値です。ただし標準だから仕方ないという話でもありません。どのコストが転嫁できていないか、自社がどちら側にいるかで打つ手が変わります。
転嫁できていないのは、労務費とエネルギー

この調査は2021年9月から毎年3月と9月に実施されているもので、直近は2025年9月24日から11月7日にかけて行われました。
コスト要素別の転嫁率
| コスト要素 | 転嫁率 | 転嫁できていない分 |
|---|---|---|
| 原材料費 | 55.0% | 45.0% |
| 労務費 | 50.0% | 50.0% |
| エネルギーコスト | 48.9% | 51.1% |
| 全体 | 53.5% | 46.5% |
労務費の転嫁率が50.0%に達したのは、この調査で初めてです。裏を返せば、賃上げした分の半分は価格に乗せられていません。最低賃金が上がっても取引価格が同じなら、その差は自社の利益から出ます。
そもそも交渉のテーブルに着けているか
- 発注側から申し入れがあり価格交渉が行われた割合は34.6%(前回から約3ポイント増)。裏を返せば、待っている限り3分の2は交渉に至らない
- 価格交渉が行われた企業のうち、7割超が「労務費についても価格交渉が実施された」と回答
- つまり交渉が始まれば労務費も議題に乗るが、始まらないケースが多数を占める
この34.6%は「発注側から申し入れがあった」ケースの割合です。相手からの申し入れを待っていて交渉に至るのは3社に1社にとどまる、という読み方になります。自社から切り出した場合の成否はこの調査からは分かりませんが、待つだけでは3分の2が交渉のテーブルに着けていないことは言えます。なお交渉を切り出してから価格が変わるまでには数か月かかるので、その期間を見通せる資金繰りが前提になります(資金繰りが3か月先しか見えないと)。
飲んだ分は、決算書のどこに出るか
転嫁できなかったコストは、売上ではなく利益率の側に現れます。財務省の法人企業統計で、規模別の水準を見ておきます。
小さい会社ほど、飲んだ分が効く
- 資本金1,000万円未満の法人の営業利益率は1.5%、経常利益率は2.8%(令和6年度)
- 資本金10億円以上では営業7.8%、経常11.1%。規模で約4倍の開きがある
- 階級別の一覧と、その差がどこから生まれるかは資本金1,000万円未満の利益率は2.8%にまとめている
資本金1,000万円未満の営業利益率は1.5%です。売上1億円なら営業利益150万円。ここで売上の1%にあたるコスト(100万円)が転嫁できずに残ると、営業利益は50万円まで落ちます。売上の1%の転嫁漏れが、営業利益の3分の2を消す規模感です。ちなみに全法人の60.3%は赤字なので、この水準は珍しいものではありません(日本の法人の6割は赤字)。
規模による利益率の違いは資本金1,000万円未満の利益率は2.8%で詳しく書いています。
転嫁できるかどうかを分けているもの
2020年版の中小企業白書に、取引の構造と転嫁の成否を結びつけた分析があります。数値は当時のものですが、構造の指摘としていまも読めます。
製造業では、依存度が高いほど転嫁できていない

- 製造業では、取引依存度が高くなるほど「転嫁できなかった」と回答する企業の割合が高まる
- 白書はこれを「取引依存度の高さは価格転嫁交渉力を低下させる可能性」と表現している
- ただしサービス業とその他の業種では同じ傾向は見られず、依存度50%超で「概ね転嫁できた」割合が高い
製造業で1社への依存が重い場合、値上げを切り出すこと自体が取引の継続を賭けた交渉になります。だから言い出せない。転嫁率の低さは交渉技術の問題ではなく、取引構造の問題として現れます。取引先の構成については1社依存は悪かで書いています。
価格が動かないなら、売る単位を動かす
値上げが通らない相手に、交渉だけで挑み続けても消耗します。当社代表の小島は、乾燥野菜の事業で「価格そのものではなく売る単位を変える」やり方を実際に試してきました。
- 他社の乾燥野菜を扱う会社と話すと、1回あたりの仕入れ量がとても多い。この「ロットの壁」に気づいて、小ロットやオリジナルの相談に企画から応える形へ軸足を移した
- Amazonの運用を支援したある会社では、市場に大袋ばかりが並ぶなか小袋にしただけで、そのカテゴリの全体ランキング上位に入った
どちらも単価を上げる交渉はしていません。ロットや容量という取引の条件のほうを変えた結果、実質的な単価が動いています。この考え方は食品メーカーの新規事業は、「少しずらす戦略」で変わるで詳しく書いています。
いま確かめられること
- 最後に価格を上げた日/2年以上前なら、その間の原材料・人件費・物流費の上昇を全部飲んでいる
- コスト要素ごとの転嫁状況/原材料は通したが労務費は通していない、という取りこぼしが起きやすい
- 上位1社の売上シェア/製造業で依存度が高いなら、値上げは交渉術ではなく取引構成の話になる
この3つを含めて自社の位置を判定できるようにしたのが経営フェーズ診断です。価格の決定力を「最後に値上げした時期」から3段階で判定し、取引先の集中度とあわせて表示します。14問・約3分で、入力した金額は送信していません。
よくある質問
その商品の価値、お客様に伝わっていますか?
「いい商品なのに売れない」——その原因の整理からお手伝いしています。食品の現場を知る私たちが、御社の売り方を一緒に見直します。まずは現状を聞かせてください。
まとめ
- 2025年9月時点の価格転嫁率は53.5%。上がったコストの46.5%は自社が負担している
- 労務費の転嫁率は初めて50.0%に到達。賃上げ分の半分は価格に乗っていない
- 発注側から申し入れて交渉が行われたのは34.6%。交渉が始まれば7割超で労務費も議題になる
- 資本金1,000万円未満の営業利益率は1.5%。売上1%分の転嫁漏れが営業利益の3分の2を消す
- 製造業では取引依存度が高いほど転嫁できていない(2020年版白書)。値上げは交渉術より先に取引構成の問題
