食品メーカーの新規事業は、「少しずらす戦略」で変わる

2020年から準備を始め、2021年、私は京都で乾燥野菜ブランド「OYAOYA(おやおや)」を立ち上げました。規格外の京野菜を乾燥させて売る、小さなブランドです。ありがたいことにメディアにも取り上げてもらい、そこからAgritureという会社に育てていきました。
ただ、正直に言うと、同じことを2026年の今から始めていたら、たぶんここまで伸びていません。今回は、その理由と、私がOYAOYA・Agritureで試してきた「少しずらす戦略」の例を、自分の経験そのままにお話しします。王道で正面から戦うのではなく、タイミングや売り方、視点を少しずらす。そこに食品メーカーの勝ち筋があると思っています。
OYAOYAは、規格外の京野菜から始まった

立ち上げた当時はD2C、そしてSDGsという追い風があって、規格外野菜を使った乾燥野菜、しかも京都産、特に京野菜に絞ったことが、評価してもらえたポイントだったと思っています。
ベンチャーが食品開発のような新しい領域に入るとき、設備投資を考えると初期費用が重くのしかかります。そこでD2Cという手段はとても有効でした。OYAOYA自体も、初回は農家にある乾燥野菜をOEMで買い取り、きれいなパッケージにして売るところから始めています。
私自身、もともとWeb周りをやっていたので、マーケティングとECの運営は社内でできました。デザインは外部のデザイナーさんと組んで作りました。その積み重ねもあって、比較的メディアに露出できたのだと考えています。
同じことを今から始めても、たぶん伸びない
一方で2026年の今は、SDGsのピークは過ぎたと感じています。実際、SDGsに力を入れている企業の割合は、2026年に調査開始以来はじめて前年を下回ったというデータもあります。D2Cブランドも大量に出てきて、「SNSで知られても結局はAmazonで買われる」「広告費ばかり上がってしまう」という声も増えています。だからOYAOYAというブランドも、今日から始めていたら、ここまでは伸びなかった気がします。
つまり、何をやるかと同じくらい、いつやるかが大事だということです。食品メーカーが新規事業を起こすときも、オンライン販売を始めるときも、海外に出るときも、そのタイミングを少し先取りしてみる必要があると思っています。
「作りたいもの」ではなく「求められているもの」を
例えば、今から廃棄されるものやアップサイクルを使った商品で勝負するのは、きびしいと思っています。OYAOYA自体、規格外野菜という物語が追い風でした。でも同じ物語は今は効きにくい。数年前に私たちが乗った波が、ちょうど引いた領域だと感じています。逆に、直近では「ギルティ消費」と呼ばれる、あえて高カロリーや高糖度を打ち出した飲料が伸びています。調べてみると、サントリーの「ギルティ炭酸 NOPE」は1本336kcalと健康志向の真逆をうたいながら、発売1週間で2,000万本を超えたそうです。健康とは逆の方向なのに、ユーザーがそれを求めている。ああいうポジショニングはとても良いと思います。
結局は、「自社が作りたいもの」かどうかではなく、「今、ユーザーの気分がどこを向いているか」。それは健康の逆側かもしれない。まずはそこを見にいくことだと思います。
自社の当たり前は、外の人には魅力に見える
これは商品そのものよりも「視点」をずらす話です。意外と、自社の人では気づかない魅力に、外部の人がすっと気づくことがあります。社内では当たり前になっている手間やこだわりが、外から見ると立派な売りになっている。こういうことは、よくあります。
OYAOYAでも、デザインは外部のデザイナーさんと組みました。自分たちだけで抱えていたら出てこなかった見せ方が、外の視点で形になったと感じています。だから、社内だけで考え込まず、外部の人をあえて入れてみる。これも一つの戦略だと思っています。
ニッチで伸び悩んだ卸事業を、どう転換したか
OYAOYAを法人化してAgritureにしてからは、業務卸なども始めました。ただ、その過程ではつまずきもありました。
小分けにするだけで、始めやすくなる
最初は京野菜のB2B業務卸だけに絞っていました。ただ、これはかなりニッチで、伸びはとても緩やかでした。そこで気づいたことがあります。他社の乾燥野菜を扱う会社と話すと、1回あたりの仕入れ量がとても多いんです。例えばAmazonで物販をしたい人からすると、ロットが大きすぎて始めにくい。
そこを小分けにして、少量から販売してあげる。このモデルが、Agritureとして伸びた一つのポイントになりました。
「自社の原料で作りたい」に応える
同じように、農家や食品メーカーが自社の原料でオリジナルの乾燥野菜を作りたいと思っても、既存の受託先ではロットが大きすぎて手が出しにくい。ここにも同じ「ロットの壁」がありました。そこでAgritureは、小ロットやオリジナルの相談に企画から応える会社へと軸足を移し、資材やノベルティの分野にも事業を広げていきました。
食品メーカーの皆さんにとっても、今戦っている事業領域から少しずれたところに、チャンスがあるのではないかと思っています。
大袋の市場に、小袋で入るだけで上位に食い込む

別の例もあります。私がAmazonの運用をサポートしたある会社は、大袋で販売している製品を持っていました。そして実際、市場には大袋ばかりが並んでいました。そこで小袋にしただけで、そのカテゴリでは全体ランキングの上位に食い込む実績が出ました。
「どこで戦うか」という領域の取り方を見ること。これは食品メーカーにとって、とても大切だと思います。
海外は「現地で本当に売れているもの」でないと通用しない
食品メーカーの中には、日本の食品は優れているから海外に出したい、と考える方も多いと思います。ただ、海外はそもそも食文化が違います。しかも各国から一軍の商品が並んでいる中での勝負です。中途半端な「なんちゃって商品」では、差別化できません。本当に売れているものでないと通用しない、というのが私の実感です。海外の展示会での具体的な立ち回りは、別の記事にまとめました。
ベトナムの麺売り場から見えること
例えば私が拠点にしているベトナムでは、最近うどんやそうめんがスーパーに並び始めました。韓国の会社が出しているチルドの生麺なども売られています。ベトナムの食文化は、朝から夜まで麺かご飯を食べる感じです。麺は比較的やわらかめで、細めん、太くてもそうめんくらいのサイズが多い印象です。
なので、そうめんのようにコシが強いものは、正直あやしい。一方で、うどんでもやわらかいものなら、受け入れられる素地があると思います。こうやって現地の食文化から派生させて展開する。この考え方が良いと思っています。逆に、日本ではきしめんがおいしいから、とそのまま持っていくようなやり方は、あまり伸びにくいと感じます。
現地市場は、都市ではなく地方に出て見る
大事なのは、現地市場をきちんと見ることです。現地市場と言っても、出張で来て都市部だけを見ても意味がありません。むしろ地方都市、特に田舎の方に行って、どんなものを食べているか、どんな店が流行っているかをしっかり覗く。そこまでやって初めて、海外市場に大きく挑戦できるのだと思っています。
まとめ
新規事業も、販路も、海外展開も、共通しているのは「作りたいもの」から入らないことです。タイミングを少し先取りして、ユーザーが本当に求めているものを、今戦っている領域から少しずらして探す。OYAOYAとAgritureをやってきて、私が一番実感しているのはそこです。皆さんの次の一手を考えるヒントになればうれしいです。
よくある質問
- 「少しずらす戦略」は、具体的にどこからずらせばいいですか?
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タイミング、売り方、視点、ロット、サイズ、市場――ずらせる切り口はいくつもあります。私の場合は「大袋が主流なら小袋にする」「業務卸がニッチなら小分けにする」というように、みんなが同じ方向で戦っている軸を一つだけずらすことから始めました。全部を変える必要はありません。
- 新規事業を始めるタイミングは、どう見極めればいいですか?
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「今、追い風が吹いているか」ではなく「これから吹くか」で考えるようにしています。SDGsやD2Cのように、追い風が来たのを見てから乗ると、たいてい波の後半です。少し早すぎるくらいがちょうどいい、というのが私の実感です。
- 自社の商品の「本当の魅力」は、どうやって見つければいいですか?
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社内だけで考えないことです。社内では当たり前になっている手間やこだわりが、外の人には強い売りに見えることがよくあります。私はデザイナーなど外部の人にあえて入ってもらい、「どこが魅力に見えるか」を教えてもらうようにしています。
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