1社依存は悪か。販売先51社以上では依存度30〜50%が最も伸びていた

取引先の依存度は下げたほうがいい、3割以下に抑えるべきだ、とよく言われます。ところが2020年版の中小企業白書を見ると、販売先が51社以上ある企業に限れば、売上高の増加率が最も高かったのは依存度を下げきった層ではありませんでした。
依存はリスクです。それは間違いありません。ただ「だから分散する」で終わらせると、伸びている会社が実際にやっていることを見落とします。
取引依存度とは何を指すか

2020年版の中小企業白書は、この指標を次のように定義しています(原文の注記)。数値はいずれも2020年版時点のものです。
定義と、販売先数との関係
- 取引依存度=最も多く取引している販売先への販売額 ÷ 総売上高 × 100
- 常時取引を行っている販売先の数が多い企業ほど、特定企業への依存度が低い企業の割合が高い
- つまり販売先を増やせば依存度は下がる。ここまでは直感どおり
問題はその先です。依存度を下げた企業が、実際に伸びているのか。
販売先が51社以上なら、伸びていたのは依存度30%超〜50%の層
白書は販売先数と依存度を掛け合わせて、売上高の増加率を見ています。
白書が示した結果
- 販売先数が151社以上の企業、および51〜150社の企業では、取引依存度が「30%超〜50%」の層で売上高の増加率が最も高かった
- 白書はこの結果に「取引の中心となる企業を有していることが重要であると考えられる」と注釈をつけている
販売先が150社ある会社でも、そのうち1社で売上の3〜5割を占めている状態がいちばん伸びていた、ということです。数は分散させつつ、中心は持っている形です。
- 販売先51社以上の企業に限った結果/販売先が数社しかない会社にそのまま当てはめることはできない
- 相関であって因果ではない/依存度を30〜50%にすれば伸びる、という意味ではない
- 伸びている会社の取引構成がそうなっていた、という順序で読む
理由は想像がつきます。中心となる取引先が1社あると、そこで求められる品質や納期の水準が自社の標準になります。設備投資や人員計画も立てやすい。売上を薄く広く分散させた状態では、どの水準に自社を合わせるべきかが決まりません。
ただし「50%超」は別の話になる
- 白書が増加率の高さを示したのは「30%超〜50%」の層
- 50%を超える層について、同じ結論は示されていない
- 依存度が50%を超えると、その1社が止まったとき売上の半分が同時に消える
「中心を持つ」と「半分を預ける」は別物です。診断で「50%以上」をリスク高と判定しているのは、この境目を見ているためです。
依存が価格交渉力を削る、業種と削らない業種
同じ白書に、依存度と価格転嫁の成否を結びつけた分析があります。ここで業種によって結果が割れます。
製造業とサービス業で逆に出る

| 業種 | 依存度と価格転嫁の関係 |
|---|---|
| 製造業 | 依存度が高くなるほど「転嫁できなかった」と回答する割合が高まる |
| サービス業・その他 | その傾向は見られない。依存度50%超の企業で「概ね転嫁できた」割合が高い |
白書は製造業について「取引依存度の高さは価格転嫁交渉力を低下させる可能性」と書いています。一方でサービス業では、深く入り込んでいるほうがむしろ値上げを通せている。
製造業の依存は「代わりが利く仕事を大量に受けている」形になりやすく、サービス業の依存は「その会社の事情を分かっている人がいなくなると困る」形になりやすい。後者は相手にとっての属人性で、自社にとっての強みになります(裏返せば自社内の属人性は弱みになる。自分が抜けたら何日もつか)。同じ依存度でも中身が違うということです。価格転嫁の全体像は価格転嫁率53.5%で書いています。
1本足から抜けたときに起きたこと
依存の話は、当社代表の小島が自分の事業で通ってきた道でもあります。
- 京都の乾燥野菜ブランドを立ち上げた当初は、京野菜のB2B業務卸だけに絞っていた
- 絞ったぶん狙いは明確だったが、市場がニッチで伸びはとても緩やかだった
- 他社と話すうちに「1回あたりの仕入れ量が多すぎて手が出ない層がいる」と気づき、小ロット・オリジナルの相談に応える形へ軸足を移した
ここで動いたのは取引先の数ではなく、受けられる仕事の形です。1社への依存を外すというと新規開拓を思い浮かべますが、実際には「いまの形では受けられなかった相手」を受けられるようにするほうが、依存度は早く動きました。経緯は食品メーカーの新規事業は、「少しずらす戦略」で変わるに書いています。
自社の依存度をどう扱うか
依存度そのものより、その依存が交換可能かどうかを見たほうが実際的です。
- 上位1社のシェアを実際に計算する/最も多い販売先への販売額 ÷ 総売上高。感覚と数字はよくずれる
- その取引が代替可能かを問う/自社が抜けたら相手は困るか、それとも他社ですぐ埋まるか。製造業で後者なら、依存はそのまま交渉力の低さになる
- 2社目を厚くする順序で考える/新規を10社増やすより、既存の2番手を3割まで育てるほうが、依存度は速く下がる
3つめが実務的には効きます。分散という言葉から新規開拓を思い浮かべがちですが、すでに取引のある相手を伸ばすほうが、必要な労力に対して依存度が動きます。
経営フェーズ診断では、上位1社の売上シェアを4区分で聞いて、取引先の集中を3段階で判定しています。価格の決定力・資金繰りの見通し・事業の属人性とあわせて、いまどこが危ないかが一度に出ます。
よくある質問
その商品の価値、お客様に伝わっていますか?
「いい商品なのに売れない」——その原因の整理からお手伝いしています。食品の現場を知る私たちが、御社の売り方を一緒に見直します。まずは現状を聞かせてください。
まとめ
- 取引依存度=最も多く取引している販売先への販売額 ÷ 総売上高 × 100
- 2020年版中小企業白書では、販売先数51社以上の企業に限れば、依存度30%超〜50%の層が最も売上を伸ばしていた。相関であり、依存度を上げれば伸びるという意味ではない
- 白書の解釈は「取引の中心となる企業を有していることが重要」。分散しきることが答えではない
- ただし50%超について同じ結論は示されていない。1社が止まると売上の半分が消える水準
- 製造業では依存度が高いほど価格転嫁できていない。サービス業では逆の傾向
依存を減らす前に自社の利益水準を確かめるなら資本金1,000万円未満の利益率は2.8%、事業を続ける前提の話は日本の法人の6割は赤字で書いています。
