ベトナムのフードデリバリーは二強寡占|手数料で売上の4割が消える

ホーチミンやハノイの街を歩くと、GrabやShopeeの制服を着た配達員がバイクで行き交います。ベトナムのフードデリバリーは生活に深く根づき、市場は毎年2桁で伸びています。ところが、この成長市場でプレイヤーは次々に姿を消しました。Baeminも、Gojekも、地場のLoshipも撤退。いまや実質2社の寡占です。
日本の食品・飲食企業がベトナムでデリバリーを使うなら、「なぜ2社に絞られたのか」と「加盟店として何割を手数料に取られるのか」を理解しておく必要があります。店頭価格のままメニューを載せると、まず赤字になります。この記事では、主要プレイヤー・撤退の教訓・加盟店の実務(手数料や出店規制)まで、食品進出の目線で解説します。配車はベトナムの配車サービスの記事、決済はベトナムの支払い方法の記事にまとめています。
成長市場なのに、生き残ったのは2社だけ

ベトナムのフードデリバリーは、東南アジアで最小の市場ながら成長率はトップ級です。ただし規模の数字は定義で倍近く割れるため、どの集計かを見て使う必要があります。
GMVは毎年2桁成長
プラットフォーム取扱高(GMV)を追うMomentum Worksによれば、市場は2023年の約14億USDから、2024年に約18億USD、2025年に約21億USDへ伸びました。毎年19〜27%の高成長です。一方でStatista系の広義の推計では約30億USDとされ、数字の幅が大きい。記事や資料で見るときは「GMVか、関連売上を含む広義か」を確認するのが安全です。
生き残ったのは「スーパーアプリ内蔵型」だけ
2023年には6社(GrabFood、ShopeeFood、BeFood、GoFood、Baemin、Loship)がしのぎを削っていました。それが2024年末には実質3社に収れんします。生き残ったのは、いずれも配車・EC・決済といった他事業を持つスーパーアプリ内蔵型でした。フード単体の専業は、赤字を他事業で補えず脱落したのです。この構図こそ、ベトナムのフードデリバリーを理解する最大の鍵です。
二強はどこが強い?Grab・Shopee・地場Beの色分け
いまの市場はGrabFoodとShopeeFoodの二強で、GMVベースでは合わせて9割超を占めます。地場のBeFoodがそれを追い、2025年半ばにVingroup系のXanh SM Ngonが新規参入しました。シェアは「何ベースか」で景色が変わります。
| プレイヤー | 系列 | GMVシェア(2025) | 強み・特徴 |
|---|---|---|---|
| GrabFood | Grab(外資) | 約48% | 配達速度・高単価注文、ホーチミンで強い(約50%) |
| ShopeeFood | Sea/Shopee | 約48% | EC連携・セール割引、若年層とハノイで強い |
| BeFood | Be(地場) | 約4% | 唯一残った国産勢、配車Beと連携 |
| Xanh SM Ngon | Vingroup系 | 僅少(2025参入) | 相乗り配達なしで品質担保 |
金額(GMV)ベースではGrabFoodとShopeeFoodがほぼ横並びの各48%です。ところが利用者アンケート(NielsenIQ、2025年4月)ではShopeeFood 56%、GrabFood 36%と、利用者数ではShopeeが上に出ます。ShopeeFoodは若年層のタピオカやストリートフードなど小額の間食注文が多く、GrabFoodは35歳以上のフルミールなど高単価注文が中心という違いが、この差を生みます。
都市でリーダーが逆転するのも特徴です。ハノイはShopeeFood、ホーチミンはGrabFoodが優勢で、BeFoodはホーチミンで相対的に強い。日本の食品ブランドが出店するなら、狙う都市とターゲット年齢で主軸プラットフォームを選ぶ発想が要ります。
撤退の連鎖が語る教訓
この市場の淘汰は、進出企業にとって生きた教材です。誰が、いつ、なぜ撤退したのかを押さえておきます。
- Baemin(2023年12月8日撤退):韓国Woowa Brothersと独Delivery Heroの合弁。鮮やかなミント色のブランディングで話題になったが、約4年で一度も黒字化できず撤退。撤退直前のシェアは約12%だった。
- Gojek/GoFood(2024年9月16日撤退):インドネシア系。ベトナムはグループ取扱高の1%未満で、補助金合戦から抜け出せなかった。
- Loship(2024年末に停止):地場の専業デリバリー。エコシステムを持たず力尽きた。
- CloudEats(2024年10月撤退):フィリピン発のクラウドキッチン。「箱を借りて配達特化」モデルは、重いコスト構造の市場では単体で回りにくかった。
教訓ははっきりしています。フード単体で赤字を垂れ流すモデルは続かず、配車・EC・決済で稼げる二強だけが持続可能なポジションを築けた、ということです。さらに、中国のMeituanもベトナム参入をうかがっており(2025年末に現地登記し、2026年に採用を開始)、価格競争の再燃も予想されます。プラットフォーム選びを1社に依存しないことが、加盟店側のリスク管理になります。
載せる前に:手数料で何割取られ、出店に何が要るか
ここが食品進出のいちばんの勘所です。デリバリーは「載せれば売れる」ものではなく、コスト構造を理解して価格を設計しないと利益が残りません。
手数料+広告+値引きで、売上の約4割が消える
加盟店手数料は各社とも公式には非公表ですが、業界の推計ではおおむね20〜30%です。GrabFoodは高めで実勢25%前後とされ、ShopeeFoodやBeFoodはやや低い水準です。さらに、アプリ内で上位表示されるための広告に売上の10〜15%を投じるのが常態で、値引き・送料無料キャンペーンの原資も店舗が一部負担します。これらを合算すると、店舗の負担は売上の約40〜45%に達するとされます。
ポイント:手数料は交渉できる
手数料率は固定ではなく、交渉の余地があります。業界メディアの解説では、複数店舗を持つチェーンが、注文量データの提示、ライバルへ販促を移すという交渉、共同マーケの確約をテコに、手数料を数ポイント引き下げた例が紹介されています。単一プラットフォームに依存せず、実績データを持つほど交渉力は上がります。
開業に要る証明とベトナム語表示
飲食店の営業には、原則として食品安全適合証明(Certificate of eligibility for food safety)が必要です。有効期限は3年、申請から20〜30営業日が目安。外資(FDI)で飲食業を営む場合や輸入食材を扱う場合は、投資ライセンスに輸入・流通業務の登録が要ります。包装食品の表示はベトナム語が必須で、日本語パッケージのままでは流通できません。ラベル改版のコストは初期見積に入れておくのが安全です。
制度が新しい点にも注意が必要です。食品安全の基盤だった政令15/2018に代わり、政令46/2026が公布され、経過措置を経て2026年4月16日に本格発効しました。新制度ではHACCP・GMPといった衛生管理の枠組みがより重視される方向で、日本工場でこうした認証を持っていることは現地での適合を後押しします。運用は始まったばかりのため、輸入・表示・検査の最新の取り扱いは、JETROや在ベトナム日本大使館で確認しながら進めてください。
クラウドキッチンで小さく検証する
家賃や内装の初期投資を抑えたいなら、クラウドキッチン(配達専用の調理拠点)で小さく始める手があります。複数ブランドを同時にテストでき、データで勝ち筋を見極めてから実店舗へ進む段階戦略が資本効率的です。食品メーカーなら、自社食材を使ったブランドを検証する実験場としても使えます。ただしCloudEatsの撤退が示すとおり、ブランド力と運営効率がないと単体では回りにくいため、撤退基準まで含めて設計するのが安全です。
日本の食品・飲食の勝ち筋

逆風の要素を並べましたが、追い風もあります。日本食はベトナムで外食の人気ジャンルとして定着し、店舗数も増え続けています。ホーチミンは日本食店が国内最多とされ、寿司・刺身が筆頭人気。客層も駐在員中心からベトナム人へ広がっています。この追い風を売上につなげるには、デリバリーの設計で押さえるべき点があります。
- 配送耐性でメニューを選ぶ:丼・カレー・おにぎりなど崩れにくい品を主力に。寿司・天ぷらは専用パッケージが前提で、日本の看板メニューがデリバリー最適とは限らない。
- 「速さ」を訴求する:2025年の調査では、注文の決め手は配達の速さが47%で、正確さ41%・低価格26%を上回る。安さより速さと確実性が刺さる。
- 商品ページを作り込む:写真・パッケージ・説明でリピートを作る。値引きのばらまきに頼らず、客層別のバウチャーで囲い込む。
- 決済はQR・ウォレット対応が前提:MoMo・ShopeePay・ZaloPay、そしてVietQRに対応する。
- 都市とターゲットで出し分け:ハノイはShopeeFood、ホーチミンはGrabFood。両方に出すのが初期のデフォルト。
デリバリー前提のP/L設計、出店許認可、プラットフォームの出し分けは、いずれも自社だけでは判断しにくい領域です。食品を軸にしたベトナム進出は、当社のベトナム進出支援(BRIDGE)で現地から伴走しています。ベトナム産の原料調達に関心があれば、ベトナムコーヒーメディアもあわせてご覧ください。
その商品の価値、お客様に伝わっていますか?
「いい商品なのに売れない」——その原因の整理からお手伝いしています。食品の現場を知る私たちが、御社の売り方を一緒に見直します。まずは現状を聞かせてください。
まとめ:二強の寡占と、手数料前提の価格設計
ベトナムのフードデリバリーは、GrabFoodとShopeeFoodの二強で9割超を占め、専業は軒並み撤退しました。日本の食品・飲食が参入するなら、手数料に広告と値引きを足して売上の4割前後がプラットフォームに流れる前提で、デリバリー専用の価格とメニューを設計することが出発点です。都市ごとの主軸プラットフォーム、出店許認可、クラウドキッチンでの検証まで含めて組み立てれば、追い風の日本食人気を売上につなげられます。
デリバリーの土台には、配車網と決済があります。ラストマイルや出張の移動はベトナムの配車サービスの記事で、注文から決済までのキャッシュレス動線はベトナムの支払い方法の記事で解説しています。進出の資金・決済・出店をまとめて相談したい場合は、無料診断もご利用ください。
また、旅行や出張で現地を実際に使うときの手順は、ベトナム旅行メディアの記事「在住者が選ぶベトナム料理の定番20品」も参考になります。
よくある質問
ベトナムのフードデリバリーは何が主流ですか?
GrabFoodとShopeeFoodの二強で、GMVベースで市場の9割超を占めます(2025年、Momentum Works)。地場のBeFoodが追い、2025年半ばにVingroup系のXanh SM Ngonが新規参入しました。Baemin・Gojek・Loshipはいずれも撤退済みです。
加盟店手数料はどのくらいかかりますか?
公式非公表ですが、業界推計でおおむね20〜30%(GrabFoodは高めで実勢25%前後)です。加えてアプリ内広告に売上の10〜15%、値引きの一部負担も加わり、店舗の負担は売上の約40〜45%に達するとされます。手数料は交渉可能で、注文量データや複数店舗の実績があると下げやすくなります。
日本の飲食店がデリバリーで成功する条件は?
手数料を織り込んだデリバリー専用価格を設計し、丼・カレー・おにぎりなど配送に耐えるメニューを主力にすることです。消費者は安さより速さを重視するため、速さと確実性を訴求します。ハノイはShopeeFood、ホーチミンはGrabFoodと都市で主軸を出し分けるのも有効です。
出店に必要な許認可はありますか?
飲食店営業には食品安全適合証明(有効3年、申請から20〜30営業日)が原則必要です。輸入食材を扱う場合は投資ライセンスへの輸入・流通登録と、ベトナム語表示が必須です。2026年4月に食品安全の新政令(46/2026)が本格発効し、HACCP・GMPなどの衛生管理がより重視される方向のため、JETRO等で最新の運用を確認しながら進めてください。
