ベトナムのコンビニ・スーパー事情|財閥ミニスーパーと日系の棚

ベトナムのコンビニ・スーパー事情|財閥ミニスーパーと日系の棚の要点を整理した図

ホーチミンの路地を曲がると、まだ屋根付きの伝統市場(ウェットマーケット)で肉や魚が並ぶ横に、24時間営業のCircle Kが白く光っています。ベトナムの小売は、この二つの風景が同じブロックに同居する段階にあります。市場で朝の生鮮を買い、帰りにミニスーパーで加工品とビールを足す——買い物の動線そのものが、伝統と近代の重ね合わせになっています。

日本の食品メーカーがベトナムで棚を取ろうとするとき、この地図が読めているかどうかで初手が変わります。どのチェーンがどの資本で、生鮮に強いのか加工品に強いのか、日本食コーナーを自前で持つのはどこか。本稿では商工省の統計と各社の直近開示をもとに、コンビニからモールまでの勢力図を整理し、最後に「日本の商品を棚に載せる」販路の設計まで踏み込みます。ホーチミン在住で食品メーカーの進出に伴走してきた立場から、現場で効く見方を添えていきます。

目次

伝統市場がまだ主役、でも近代小売の追い上げが始まった

ベトナムのコンビニ・スーパー事情|財閥ミニスーパーと日系の棚で押さえる3つの視点

商工省 国内市場管理・発展庁の「Vietnam Domestic Market Report 2025」によると、ベトナムの小売総額は2025年に約2,690億USD、前年比9〜10%成長しました。コロナ影響期を除けば5年で最速のペースです。EC市場は約320億USD(総小売の約12%)で年20%超の伸び、2030年には500億USDに達すると予測されます。実店舗の近代化とオンライン化が同時進行している点は、進出戦略を組むうえで外せません。

インフラの数を見ると、この国がまだ「市場の国」であることがはっきりします。同庁の2025年集計では、スーパーマーケットが1,293店、ショッピングモールが276ヶ所なのに対し、伝統市場(ウェットマーケット等)は8,274ヶ所あります。桁が違うのです。

それでも潮目は変わりつつあります。近代小売(モダントレード、以下MT)は2024年時点で約27〜29%とされ、拡大が続いています。一方の伝統小売(市場・パパママ店、以下TT)はシェアが低下傾向で、売上の落ち込みも報じられています。長く多数派だったパパママ店と市場が、いま曲がり角に差しかかりました。

「近代化率」の数字がバラつく理由

MTのシェアは資料によって幅が出ます。業態を広く取った定義では高めに、狭義の定義では低めに算出されるためで、どちらが正しいという話ではありません。定義が違えば数字も動く、と押さえておけば混乱しません。共通して言えるのは、方向は一貫して近代小売の拡大側だということです。

もう一つの重要な事実が都市集中です。近代小売は上位2都市(ハノイ・ホーチミン)に約3割が集中し、主要都市に偏っています(Q&Me「Modern Trade trend 2025」)。裏返せば地方はまだ手薄で、そこが各社の次の主戦場になります。近代小売店舗は2020年から2024年にかけて3倍超に増えて2024年末に16,286店に達し、そのうち45%超をコンビニとミニスーパーが占めます。

コンビニとミニスーパー:店舗数の王者は財閥、話題の主役は外資

ここで日本人が最初につまずくのが「コンビニ」の定義です。ベトナムでは日本語で「コンビニ」と訳される店の多くが、実態は生鮮も置くミニスーパー(ミニマート)で、海外系の24時間コンビニとは業態が別物になります。この違いを押さえてから各社を見ていきます。

絶対王者はベトナム財閥系のミニスーパー

店舗数で群を抜くのは、日本人がイメージするコンビニではなくベトナム財閥系です。WinMart+は財閥Masan傘下のWinCommerceが運営し、WinMart/WinMart+合計で2025年9月末に約4,292店。前身はVingroupのVinMartで、2019年にMasanが買収して「Win」へ改称した経緯を持ちます。実態は生鮮・日用品を置くミニスーパーで、新規出店の約75%が農村型のWinMart+と、地方シフトを鮮明にしています。

Bách Hóa Xanhは上場企業MWG(Thế Giới Di Động=もとは携帯電話量販店)が運営し、2025年9月末で2,290店。生鮮に強く、南部を地盤としつつ2025年に北部(Ninh Bình省など)へ進出を始めました。スマホ屋が食品スーパー最大手の一角に化けた、ベトナムらしい業態転換の例です。

「コンビニ戦争」の主役は海外系

一方、日本人がイメージする「コンビニらしいコンビニ」は海外系が担います。Circle Kは海外系の最大手で、2025年の報道値で約464店。都市部・24時間・イートイン併設で、若者の溜まり場になっています。GS25(韓国GS Retailとの合弁)は2018年にホーチミンへ進出し、2025年11月時点で約400店規模。2025年3月からは北部ハノイへ本格進出し、8ヶ月で約50店を開けました。日系ではMinistop(イオン系×Sojitz)が約191店(2025年)、FamilyMartが約130〜160店規模で、弁当・おにぎり・調理麺といった中食を差別化軸にしています。

チェーン系列・資本店舗数(時点)業態・特徴
WinMart+Masan(越財閥)約4,292店
(2025年9月末、Winブランド合計)
実態はミニスーパー。全国最大網。農村シフト
Bách Hóa XanhMWG(越・上場)2,290店
(2025年9月末)
生鮮に強いミニスーパー。南部地盤、北部進出中
Circle K米ブランド約464店
(2025年、報道値)
海外系コンビニ最大手。24時間・イートイン
GS25韓国系合弁約400店規模
(2025年11月)
韓国フードに強い。北部を8ヶ月で約50店
Ministopイオン系(日)約191店
(2025年)
日本式。ファストフード・イートイン
FamilyMartファミマ系(日)約130〜160店規模日本式。弁当・調理麺・日本食に強い
店舗数は四半期単位で数百店動くため、必ず時点とセットで捉える。出典:各社開示・WinCommerce四半期報告・theinvestor等の報道

棲み分けを一言でまとめると、「近所の小型スーパー」=ベトナム財閥系(WinMart+・Bách Hóa Xanh)、「若者が集まる都市型コンビニ」=海外系(Circle K・GS25)、という理解が実務に効きます。生鮮まで欲しければ財閥系ミニスーパー、飲料・スナック・弁当ならコンビニ、という買い分けが現地の生活感覚です。

スーパーとモール:地場・日系・タイ・韓国の四つ巴

大型店・モール帯は、地場と外資が資本の色を競う舞台です。地場最大手はCo.opmart(協同組合系のSaigon Co.op)で、スーパー・ハイパーが140店超、Co.op Foodなど全業態を合わせると約800拠点。国内最大の地場スーパー網を持ちます。

外資の主役は三つあります。日系のAEONは稼働モール9ヶ所を軸に、GMS・スーパーを含め約280拠点規模(2026年初)。タイのCentral Retailは旧Big CをGO!へ転換し、GO!ハイパー43店ほか計約90店を展開します。韓国のLotte Martはスーパー16店+百貨店3店規模で、旗艦はハノイ西湖のLotte Mall West Lakeです。このほか業務用卸のMM Mega Market(旧独Metro、現タイ資本)が29センター、韓国Emartを財閥THACOが運営するEmartが3〜4店、住友商事×BRGのFujimartがハノイで19店(2025年6月)と続きます。

チェーン資本規模(時点)業態
Co.opmartSaigon Co.op(越)スーパー/ハイパー140店超、全業態約800拠点地場最大。PBも展開
AEONイオン(日)稼働モール9、全体約280拠点(2026年初)モール/GMS/スーパー
Central Retail(GO!)セントラル(タイ)計約90店(GO!ハイパー43ほか)旧Big C。ハイパー/モール
Lotte Martロッテ(韓)スーパー16+百貨店3(2020年代前半・目安)スーパー/百貨店/モール
MM Mega MarketTCC/BJC(タイ)29センターB2B卸・業務用(旧Metro)
Fujimart住友商事×BRG(日越)19店(2025年6月、ハノイ)日系スーパー。日本食直輸入
欧州勢(独Metro・仏Big C)が撤退し、いまはタイ・日本・韓国の域内資本が引き継いだ構図。出典:各社会社概要・GourmetPro・theinvestor等

日系チェーンの動きは、日本メーカーの「入口」になる

進出支援の目線で最も重要なのが日系チェーンです。彼らは日本食品の直輸入の受け皿になり、自らバイヤー機能を持つからです。

  • AEON:稼働モール9を、2030年に30モール、GMS100・小型スーパー200店へ広げる構想を掲げる。売上は年約25%成長で2030年に3,000億円(約18.4億USD)を目標とし、ASEAN投資の60%をベトナムに集中投下すると公言。2026年にはダナン初出店を計画しています。ただし30モールやGMS100は目標値で、稼働9モールという実績とは分けて読む必要があります。
  • Fujimart:住友商事とベトナムBRGの合弁スーパーで、2025年6月時点でハノイに19店。日本食品を直輸入して棚に載せる代表例で、日本メーカーにとって入口になりやすいです。
  • Ministop・FamilyMart:弁当・おにぎり・調理麺・イートインが差別化軸。ただし店舗数では海外系Circle K・韓国系GS25に後れを取っています。

生活圏への日本ブランド浸透という点では、Uniqloが約30店(2025年に中部フエへ進出)、MUJIも拡大中と、小売以外でも存在感が増しています。日本の買い物感覚に一番近いのは、イオンモールとFujimartだと考えておくと現地イメージがつかみやすいです。

買い物文化:生鮮は市場、加工・輸入品は近代小売

棚を取る前に、ベトナムの買い物文化を押さえておきたいところです。生鮮は依然として市場が主役で、肉・魚・野菜は「その日に市場で」という習慣が根強いです。近代小売の生鮮は、安心・涼しい・まとめ買いという価値で少しずつ切り込んでいる段階です。

逆に、パック食品・加工食品・輸入品は近代小売が主戦場になります。冷蔵・冷凍・常温加工品は、温度管理と品質保証のある近代小売でこそ回ります。日本の食品メーカーが狙うべきは、この近代小売側の棚なのです。菓子・スナック・即席麺・調味料・ソースといった常温品から、冷蔵・冷凍の惣菜・水産、弁当・寿司・おにぎりの中食まで、日本食コーナーはAEON・Fujimart・日系コンビニが展開しています。

PBと中食、二つの論点

近代小売各社はPB(プライベートブランド)を強化しています。Co.opmart、WinMart、AEON(トップバリュ)、Bách Hóa Xanhが低価格帯でナショナルブランドと競合するため、日本メーカーは「PB受託」か「ブランド品での棚取り」かを早めに意識したいところです。中食(おにぎり・弁当)は日系コンビニが牽引するが、温かい出来立ての屋台飯という強力な競合がいて、定着はまだ途上にあります。

日本の食品を棚に載せる:販路の三つの入口とボトルネック

ベトナムのコンビニ・スーパー事情|財閥ミニスーパーと日系の棚を実務に落とす3つのステップ

ここからが本題です。日本の食品を近代小売の棚に載せる入口は、大きく三つあります。

  1. 日系小売の直輸入(AEON・Fujimart):自前のバイヤーと日本食コーナーを持つため、日本メーカーがまず狙う定石。
  2. 現地ディストリビューター経由:輸入通関・食品登録・コールドチェーン・与信をまとめて担う専門商社が多数あり、現実的な入口になります。
  3. 近代小売チェーンへの直接卸:バイヤーとの商談で棚を取ります。数量と継続供給の約束が問われます。

AEONの購買部門は、基準を満たし継続して安定供給できるベトナム産サプライヤーを探しており、現地の棚に載せるだけでなく、日本や他国のAEONの棚へ「輸出する調達拠点」としても機能しています。つまり日本メーカーには、AEONの調達基準(品質・数量・継続供給)を満たせるかが分かれ目になります。

そして参入の技術的ボトルネックがコールドチェーンです。温度管理物流はまだ発展途上で、冷蔵・冷凍・中食を扱うには自前かパートナーの温度管理物流が欠かせません。「輸入品を冷たいまま棚まで運べるか」——ここを設計できるかどうかが、常温品と冷蔵・冷凍品で参入難度を大きく分けます。USDAやB-Companyの整理でも、製造能力・コールドチェーン物流・小売アクセス・品質管理の4点セットが必要ケイパビリティとして挙げられています。

販路を設計するうえでは、実店舗だけでなくオンラインの流れも同時に見ておきたいところです。ベトナムの EC市場の構造や、棚での購買を左右するキャッシュレス決済の普及状況、都市部の即時配送を担うフードデリバリーの寡占構造は、小売の勢力図とセットで動いています。飲料・嗜好品での棚取りを考えるなら、ベトナムコーヒーの市場動向も参考になります。

その商品の価値、お客様に伝わっていますか?

「いい商品なのに売れない」——その原因の整理からお手伝いしています。食品の現場を知る私たちが、御社の売り方を一緒に見直します。まずは現状を聞かせてください。

まとめ:地図を読んでから、棚と物流を設計する

ベトナムの小売は、伝統市場8,274ヶ所がまだ主役でありながら、伝統小売がシェアを落とし始めた転換点にあります。店舗数の王者はベトナム財閥系のミニスーパー(WinMart+・Bách Hóa Xanh)、話題の主役は海外系コンビニ(Circle K・GS25)、大型店はAEON・Central Retail・Co.opmartが競う——この色分けを押さえるのが第一歩です。

日本の食品メーカーにとっては、日系小売の直輸入・ディストリビューター経由・チェーン直卸という三つの入口があり、常温品か冷蔵・冷凍品かでコールドチェーンの難度が変わります。店舗数は半年で陳腐化するため、必ず時点付きで最新値を追いながら、棚と物流を一体で設計していきたいところです。当社BRIDGEでは、ホーチミン在住の視点からベトナム進出の伴走支援を行っています。自社の商品がどの入口に向くかを整理したい方は、無料診断から始めてみてください。

また、旅行や出張で現地を実際に使うときの手順は、ベトナム旅行メディアの記事「ホーチミンのスーパーで買えるお得なお土産」も参考になります。

よくある質問

ベトナムに日本のコンビニやイオンはありますか?

イオン(AEON)は稼働モール9ヶ所を軸にGMS・スーパーを含め約280拠点規模(2026年初)で存在感が大きく、住友商事系のFujimartもハノイに19店(2025年6月)あります。ミニストップ・ファミマも展開しています。日本の買い物感覚に一番近いのはイオンモールとFujimartです。

店舗数が一番多いチェーンはどこですか?

店舗数の絶対王者はベトナム財閥系のミニスーパーです。Masan傘下のWinMart+がWinブランド合計で約4,292店(2025年9月末)、MWGのBách Hóa Xanhが2,290店(同)で、海外系コンビニのCircle K(約464店)を一桁引き離しています。大型店・モールはAEON(日)・Central Retail(タイ)・Co.opmart(越)が主役です。

ベトナムのコンビニやミニスーパーで日本の商品は買えますか?

買えます。AEON・Fujimart・日系コンビニの日本食コーナーで、菓子・調味料・即席麺・冷凍食品などが入手できます。韓国系GS25では韓国食品が強いなど、チェーンごとに品揃えの色が出ます。生鮮まで欲しい場合は、実態がミニスーパーのWinMart+やBách Hóa Xanhが向いています。

日本の食品を棚に載せるには、まず何から始めればよいですか?

入口は、日系小売(AEON・Fujimart)の直輸入、現地ディストリビューター経由、チェーンへの直接卸の三つです。常温の加工品なら比較的着手しやすく、冷蔵・冷凍・中食はコールドチェーン(温度管理物流)の確保がボトルネックになります。まずは自社商品が常温か要冷か、どの入口に向くかを切り分けるところから設計するのが現実的です。

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この記事を書いた人

小島 怜のアバター 小島 怜 うまみ企画 CEO

株式会社Agriture CEO/乾燥野菜やドライフルーツを中心とした受託加工・OEM事業。京都府内の農家と連携し、規格外野菜の活用や6次産業化支援を通じて、「持続可能な食の流通」を追求している。製造現場での豊富な実体験を活かし、商品企画から試作、小ロット対応、パッケージ設計、販路開拓支援まで、OEMを検討するすべての事業者に伴走するサポートを提供。

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