ベトナムの家電・スマホはMWGの独壇場|Samsung生産大国の売り場

緑や黄色の看板を掲げた大型家電店が、いつの間にかどの街区にも建っています。ホーチミンで家電やスマホを買う場所は、この数年ですっかり入れ替わりました。個人経営の携帯ショップが並んでいた通りは減り、代わりに全国チェーンの大型店へと消費が移っています。日本のヨドバシやビックカメラに近い感覚で、スマホから冷蔵庫までワンストップで揃う店に人が集まってきました。
この市場は、日本のビジネス層にとっても他人事ではありません。世界のSamsungスマホの相当数はベトナムで作られ、日本で使うGalaxyもベトナム製である可能性が高いといえます。一方で店頭の主役は韓国・中国ブランドで、Panasonicやソニーといった日本勢は独自のポジションを探っています。この記事では、家電量販・スマホ販売という切り口から、ベトナム小売の勢力図と日本ブランドの立ち位置を、進出企業や出張者の目線で整理します。決済のしくみはベトナムの支払い方法の記事もあわせて参照してください。
個人店から全国チェーンへ、消費はどこに集まったか

ベトナムの家電・携帯小売で起きたのは、街の個人店から全国チェーンへの集約です。冷蔵庫も洗濯機もスマホも、大型のワンストップ店で買うのが主流になりました。オンライン販売も伸びていますが、スマホや大型家電は「店で実機を見て買う」比率がなお高いのが特徴です(Expert Market Research)。
ベトナムのB2C-EC全体は2025年で約310億ドル、小売総額の約1割に達しました(Vietnam Briefing)。ただしEC市場を牽引するのはShopeeやTikTok Shopといった総合モールで、これは全カテゴリーの話です。高単価のスマホや大型家電は、店舗網を持つ専門チェーンのオムニチャネル、つまり自社ECで注文して最寄り店で受け取る買い方が根強く残っています。この市場を理解する近道は、どのチェーンが店舗網を握っているかを押さえること。EC全体の動きはベトナムのECの記事で詳しく扱っています。
市場の顔、MWGはなぜ他を圧倒するのか
ベトナムの携帯・家電小売を語るなら、まずMWG(Mobile World Investment、HOSE上場)の規模を押さえるのが実務的です。MWGは2つの巨大チェーンを持ちます。スマホ・IT製品のThế Giới Di Động(テヨイ・ジードン=「携帯の世界」)と、大型家電のĐiện Máy Xanh(ディエンマイ・サイン=「緑の電機」)です。
店舗数は圧巻で、2025年末時点でThế Giới Di Động(TopZone含む)が約1,012店、Điện Máy Xanhが約2,008店。合計で3,000店を超える全国網を敷いています(The Investor)。スマホと家電の両面を1グループで握っている点が、他社にない強みです。
数字で見ても存在感は際立ちます。グループ売上は2025年通期で約155.93兆VND(約59.2億ドル)、前年比16%増。純利益は約7.07兆VNDとほぼ倍増しました(The Investor)。時価総額は2025年時点で約43億ドルに達し、一小売企業がベトナム株式市場の主力銘柄になっています(stockanalysis.com)。同社は2030年に売上100億ドルという目標を掲げています。
グループの多角化も進む
MWGは食品スーパー「Bách Hóa Xanh」も運営し、小売コングロマリット化しています。売上や時価総額はこうした業態を含むグループ連結値なので、「携帯・家電だけの数字」ではない点は割り引いて読む必要があります。それでも家電・携帯の主戦場での規模は突出しています。
2番手FPT、通信系Viettel — MWGを追うのは誰か
2番手以下も、それぞれ得意分野を持っています。第2極がFPT Shop(運営はFPT Retail、HOSE上場)です。スマホ・IT製品を中心に全63省・市をカバーし、店舗数は報道により600〜800店規模とされます。Apple専売の「F.Studio by FPT」を系列に持ち、Apple製品の品揃えに強みがあります。
CellphoneSは独立系の技術製品専門チェーンで、Apple公認ディーラーの最高ランクを持ち、正規品志向の都市部ユーザーに支持されています。Nguyễn Kimは1992年設立の老舗家電量販で、かつての代表格。Viettel Storeは国営通信Viettel系で全国300店超を展開し、キャリア回線とのセット販売が武器です(CB Insights)。通信会社が自前で量販網を持つのは、日本ではあまり見ない形です。
| チェーン | 系列/親会社 | 店舗数(時点) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Thế Giới Di Động | MWG(上場) | 約1,012店(2025年末) | スマホ・IT。業界最大 |
| Điện Máy Xanh | MWG(上場) | 約2,008店(2025年末) | 大型家電の全国最大網 |
| FPT Shop | FPT Retail(上場) | 600〜800店規模 | 第2極。AppleはF.Studioが強い |
| CellphoneS | 独立系 | 全63省展開 | Apple最高ランク公認 |
| Viettel Store | Viettel(国営通信) | 300店超 | キャリア系最大 |
スマホはどれが売れているか、Samsung首位でAppleが浮上
スマホのブランド別シェアは、調査会社と四半期によって数字が変わるため、出所をそろえて読む必要があります。ここでは混ぜずに、2つの調査を別々に紹介します。
Canalysの2025年Q2データでは、Samsungが26%で首位を守りつつ、AppleがXiaomiを抜いて2位(20%)に浮上しました。Appleは出荷が前年同期比37%増と伸び、iPhoneの存在感が増しています(VietnamNet)。
| 順位 | ブランド | シェア(Canalys 2025年Q2・出荷ベース) |
|---|---|---|
| 1 | Samsung | 26% |
| 2 | Apple | 20% |
| 3 | Xiaomi | 18% |
| 4 | OPPO | 16% |
| 5 | vivo | 7% |
一方、Counterpointの2025年Q1データでは、Samsungが28%で首位、Xiaomiが2位に浮上、Appleが2四半期連続でトップ3という並びでした(Counterpoint)。同じ2025年でも、Q1のCounterpointとQ2のCanalysでは順位が入れ替わります。「どの調査会社の、いつの四半期か」を必ず添えて語るのが安全です。
興味深いのは、ベトナムでは廉価な新型より高価格帯のフラッグシップが選ばれやすい傾向です。Counterpointによれば、iPhone 16eは反応が鈍く、売れ筋は依然としてiPhone 16 Pro Maxでした。5G化も急で、2025年Q1のスマホ出荷に占める5G比率は46%と過去最高を記録しています。
Appleについて日本人が意外に思うのは、ベトナムに直営Apple Storeが1軒も無いという点です(Vietnam Insider)。リアル店は、MWGが運営する「TopZone」やFPTの「F.Studio」といったモノブランド公認店が担ってきました。2023年には公式オンラインApple Storeも開設され、Appleがベトナムを重視し始めた流れが見えます。
国産ブランドの試みもありました。Vingroup傘下のVinSmartは2018年にスマホ事業へ参入したものの、わずか3年後の2021年に撤退。理由は「全リソースをEVのVinFastに集中するため」でした(VnExpress)。スマホとEVが同じ企業グループの兄弟事業だったわけです。この転換の先にあるVinFastの話はベトナムのEVの記事で掘り下げています。
ベトナムのスマホは、買う市場であり作る国でもある
店頭で売れているSamsungは、そのままベトナムで作られ、世界へ輸出されています。これは一企業の話にとどまらない、国家規模の事実です。Samsungはベトナムのバクニン省・タイグエン省・ハノイ・ホーチミンで6工場を操業し、2024年の6工場合計で売上625億ドル・輸出額544億ドルを記録しました(The Investor)。
桁が大きすぎて実感しにくいので、比率で見てみます。Samsungの輸出はベトナム総輸出の約13.7%(2024年1〜11月)、売上はベトナムGDPの約13%に相当します(同。2024年通年では輸出約13.4%・GDP比約13.1%)。1社で国のGDPの1割超という数字は、他国ではなかなか見られません。従業員は約8.7万人、累計投資額は約232億ドルでベトナム最大の外資です。バクニンとタイグエンの2工場は16年で累計20億台を2025年6月に達成しました(baochinhphu)。
進出企業への示唆
Samsungの巨大なサプライチェーンは、部品や裾野産業を大量に呼び込みます。日系サプライヤーがベトナム進出先を選ぶ際、この産業集積が一つの引力になってきました。「スマホを買う市場」と「世界にスマホを供給する生産国」という二面性が、ベトナム経済の骨格をなしています。
分割払いと下取りが支える買い替え文化
ベトナムでスマホや家電を買うとき、広く使われるのが分割払い(trả góp)です。チェーン各社が金融会社や0%キャンペーンと組み、頭金と月賦で新品のiPhoneや家電を手に入れる買い方が定着しています。下取り(thu cũ đổi mới=旧品を回収して新品に交換)のプログラムも各社が常設し、買い替えを後押ししています。
買い方の型を整理すると、次の流れが標準です。
- 実機を店頭で確認し、スタッフに相談する
- 分割払いを申し込む(頭金+月賦、または0%キャンペーン)
- 旧端末を下取りに出して差額を軽くする
- オムニチャネルで自社ECから注文し、最寄り店で受け取る選択肢もある
なお、分割や下取りの「利用率○%」を示す信頼できる一次統計は見当たりませんでした。ここでは広く使われる商慣行として扱い、数値は伏せています。決済まわりの背景はベトナムの支払い方法の記事もご覧ください。
日本ブランドはどこで戦っているか
店頭のボリュームゾーンでは、エアコン・冷蔵庫・洗濯機を韓国のSamsungやLGが量で押さえます。日系のPanasonic・Toshiba・Sharpはそこに数で並ぶのではなく、中〜高価格帯で品質を訴える。韓国勢が量を、日系が品質帯を取るという棲み分けが、売り場ではっきり分かれています。ベトナムの家電市場は2024年で約48.6億ドル、2025〜30年の年平均成長率は約7.8%と伸びています(Grand View Research)。
Panasonicはハノイに冷蔵庫工場、フンイエンに洗濯機工場とR&D拠点を持ち現地生産しています。炊飯器などの調理家電でもブランド想起が強いのが特徴です。一方ソニーは、テレビやカメラのブランド力は健在ですが、2008年にベトナムのテレビ組立工場を閉鎖しました。WTO加盟で完成品を輸入したほうが安くなり、作るより輸入という判断に傾いたためです(Vietnam News)。現在は輸入販売が中心です。
注意したいのが冷蔵庫ブランドのAquaです。もとは三洋(Sanyo)系のブランドですが、現在は中国のHaier傘下にあります。日本ブランドの記憶を持ちながら、資本は中国という一例です。象印やタイガーの炊飯器は、中間層や贈答用途で「日本製=高品質」の代名詞的な存在として支持されています。日本ブランドがこの市場でどう受け皿を作るかは、進出戦略そのものに直結します。
その商品の価値、お客様に伝わっていますか?
「いい商品なのに売れない」——その原因の整理からお手伝いしています。食品の現場を知る私たちが、御社の売り方を一緒に見直します。まずは現状を聞かせてください。
まとめ:勢力図を押さえてから戦略を組む

ベトナムの家電・スマホ販売は、MWGを筆頭とする全国チェーンへの集約が進み、高単価品は実機を見て店で分割契約する買い方が主流です。スマホはSamsungが首位を守りつつAppleが浮上し、そのSamsungは国のGDPの1割を占める生産国の顔も持ちます。日本勢はPanasonicの現地生産やソニーのブランド力を軸に、量ではなく質のポジションで戦っています。
こうした勢力図を押さえておくと、流通チャネルの選び方も、ブランドの立ち位置の作り方も見通しが立ちます。ベトナム進出の具体的な設計は当社のベトナム進出支援(BRIDGE)で伴走します。まずは現状整理から、という段階なら無料診断もご利用ください。
よくある質問
ベトナムでスマホや家電を買うなら、どこが安心ですか?
正規品を求めるなら、Thế Giới Di Động、FPT Shop、CellphoneS、Apple製品ならTopZoneやF.Studioといった全国チェーンや公認店が無難です。非正規・並行輸入品のリスクを避けるため、「正規公認店かどうか」を確認するのが大切です。
ベトナムでiPhoneは高いですか?
iPhoneは現地でも高級品の位置づけです。ただしAppleの公式オンラインストア開設やTopZone・F.Studioの整備で、正規品は以前より買いやすくなりました。具体的な価格は変動が大きいため断定は避けますが、フラッグシップが好まれる傾向があります。
なぜMWGはそんなに強いのですか?
スマホ専門のThế Giới Di Độngと大型家電のĐiện Máy Xanhという2つのチェーンで、携帯と家電の両面を1グループで押さえているためです。2025年末で合計3,000店を超える全国網を持ち、店舗数・売上ともに他を引き離しています。
日本で使っているGalaxyもベトナム製ですか?
その可能性は高いです。Samsungはベトナムで6工場を操業し、2工場だけで16年間に累計20億台のスマホを生産しました。ベトナムはSamsungにとって世界有数の生産拠点で、日本で流通するGalaxyがベトナム製であることは珍しくありません。
