原料商社の提案営業—「売り込み」をやめた会社から選ばれる理由

原料商社の提案営業—「売り込み」をやめた会社から選ばれる理由の要点を整理した図

「原料の質には自信があるのに、メーカーへの提案がなかなか採用まで進まない」。原料商社やメーカーの営業の方から、こういう相談をよく受けます。

サンプルもスペックシートも用意して、価格も詰めている。それでも「検討します」で止まる。値段を下げれば通ることもあるが、それを続けると利益が消えていく——。原料を扱う商売で、多くの営業がぶつかる壁です。

結論から言うと、原因は原料そのものではなく「売り方」にあることがほとんどです。原料を売り込むのではなく、相手の商品開発を前に進める。この順番に変えるだけで、同じ原料でも通り方が変わります。この記事では、原料商社の提案営業をどう組み立て直すかを、買い手の実態に沿って整理します。

目次

「原料を売り込む」ほど、開発担当は引いていく

原料商社の提案営業—「売り込み」をやめた会社から選ばれる理由で押さえる3つの視点

まず押さえておきたいのは、メーカーの開発担当は「原料を買いたい」わけではない、ということです。彼らが向き合っているのは、新商品を出す、原価を下げる、クレームを減らす、といった自分たちの課題です。原料はその課題を解くための手段でしかありません。

ところが営業の側は、つい「うちの原料は品質が高い」「他社より安い」というスペックの話から入ってしまう。担当者からすると、それは「で、それがうちの何の役に立つの?」という状態です。良い原料であるほど、売り込まれると身構えられてしまう。ここに最初のズレがあります。

営業の入り方担当者の受け取り方結果
「品質が高い原料です」他社も同じことを言う価格の比較に持ち込まれる
「他社より安く出せます」値下げ交渉の材料にされる利益を削って終わる
「この課題を、この原料で解けます」自分の仕事が前に進む相談相手として選ばれる

つまり、原料の説明を上手にすることが提案営業ではありません。相手の課題を先に掴み、その解き方として原料を差し出す。この「御用聞き」から「課題を解く側」への立ち位置の変化が、提案営業の入り口です。

採用を決めるのは一人ではない——関与部署の本音を掴む

提案が「担当者には刺さったのに社内で止まる」とき、たいてい原因は、開発担当の後ろにいる人たちを見ていないことです。一般に、食品メーカーで新しい原料を採用するときは、商品開発だけでなく、購買、品質保証、そして経営が関わります。それぞれ見ているものが違い、誰か一人でも不安が残ると話は止まります。

関与する立場一番見ているもの一番恐れていること
商品開発その原料で狙いの味・食感・企画が実現できるか試作が思うように仕上がらないこと
購買・調達価格と、安定して供給され続けるか供給が止まる・値上がりで原価が崩れること
品質保証規格書・アレルゲン・製造管理に穴がないか表示違反やアレルゲン事故による製品回収
経営その商品が利益に見合うか手間の割に売れない・利益が出ないこと

特に見落とされがちなのが品質保証です。新規サプライヤーの承認は、多くの場合ここが関門になります。書類審査に加え、原料サンプルの検査や、製造現場の衛生・管理体制の確認まで求められることがある。品質保証が最も恐れるのは、アレルゲン情報の欠落や、規格の無断変更が原因で製品回収に至ることです。提案の段階でこの不安を先回りして消せると、承認が一気に進みます。

提案営業がうまい会社は、目の前の担当者だけでなく、その後ろにいる購買・品質保証・経営の顔まで想像して提案を組み立てています。

その原料の価値、開発担当に伝わっていますか?

「原料はいいのに、提案が通らない・取引が広がらない」——その原因の整理からお手伝いしています。原料を売る側も経験した私たちが、用途提案や販路の組み立てを一緒に見直します。まずは現状を聞かせてください。

開発担当が本当に欲しいのは「用途の答え」

では、何を差し出せば相手の仕事は前に進むのか。原料商社が持っている強みは、実は原料そのものよりも「その原料で何が作れるか」という用途の知見です。同じ原料を複数のメーカーに納めていれば、どんな配合で、どんな商品に化けたのかを一番よく知っているのは商社です。

これは業界全体の流れでもあります。大手の食品素材メーカーは、自社の強みを「素材を最適に組み合わせるアプリケーション力」と掲げ、各地にアプリケーションラボや研究拠点を構えて、試作やレシピの形まで提案する体制を敷いています。素材そのものの性能ではなく、「その素材で何ができるか」を見せる競争に、すでに移っているということです。原料商社も、この土俵で戦えます。

スペックシートを渡すのは「原料の情報」を渡す行為です。用途を提案するのは「商品の作り方」を渡す行為です。開発担当にとって価値が大きいのは、圧倒的に後者です。

渡すもの中身担当者にとっての価値
スペックシート成分・規格・価格比較検討の材料どまり
用途提案この原料で作れる商品・配合の方向性・想定される売り場企画がそのまま進む
試作サンプル実際に形にした試作品社内を説得する材料になる

「この原料なら、こういう商品が作れます」を、できれば試作の形まで持っていく。そこまでやると、担当者は自分の企画会議にそのまま持ち込めます。原料を売る営業から、相手の商品開発を代わりに一歩進めてあげる営業へ。ここが差のつくところです。

用途提案は、こう組み立てる

用途提案といっても、特別な発想力は要りません。手順に落とせます。

  • 相手の狙いを一つ決める:新商品を出したいのか、既存品の原価を下げたいのか、他社原料から置き換えたいのか。狙いが違えば刺さる提案も変わる。
  • その原料の用途を3つ書き出す:一つの原料は、たいてい複数の商品に化ける。「この機能を使えばこの商品」という組み合わせを、過去の納入実例から棚卸しする。
  • 一番近い一つを試作に落とす:狙いに一番近い用途を選び、配合の方向性と、できれば試作サンプルまで用意する。
  • 社内が通る形にまとめる:味・食感の狙い、想定する売り場、そして品質・供給の裏づけを一枚に。担当者が会議でそのまま使える資料にする。

用途提案の中身は、多くの場合すでに社内に眠っています。「あの会社にはこの配合で納めた」「この原料はあの商品に化けた」という実例の記憶です。新しく発明する必要はなく、頭の中にある納入実例を、次の相手に使える形へ整理し直す作業だと考えてください。

「使い方」まで描いたら、価格の話から抜けられた

この立ち位置の変え方は、私たち自身が原料を扱う中で腹落ちしたことでもあります。

Agritureグループは、国産の規格外野菜をアップサイクルした乾燥野菜を、業務用原料として食品メーカーに卸しています。分かりやすい例が、日清食品「日清ラ王」との乾燥野菜セットの開発です。ここでやったのは「乾燥野菜を買ってください」という提案ではありません。醤油・味噌・柚子しお・担々麺・豚骨醤油・ちゃんぽんという6つの味わいそれぞれに合わせて、九条ネギ・玉ねぎ・キャベツ・椎茸・万願寺とうがらしといった野菜を選び、スープごとにブレンドを設計しました。つまり「この原料で、御社のこの商品がこう良くなる」という用途の提案です。

原料の産地やスペックをいくら説明しても、それだけでは話は進みません。逆に、使い方まで一緒に描くと、価格だけの比較から抜け出せる。売る側に立って、これを痛感しました。その経験をもとに、うまみ企画では原料商社や食品メーカーの営業・マーケティングの組み立てをお手伝いしています。提案の型を整理し、それをWebの導線に落として、相談が向こうから来る状態を一緒に作る。原料の良さを、買い手の言葉に翻訳するところが私たちの得意なところです。提案営業を含め、原料商社に必要なマーケティング全体は原料商社のマーケティングの全体像の記事で整理しています。

その原料の価値、開発担当に伝わっていますか?

「原料はいいのに、提案が通らない・取引が広がらない」——その原因の整理からお手伝いしています。原料を売る側も経験した私たちが、用途提案や販路の組み立てを一緒に見直します。まずは現状を聞かせてください。

「品質保証の不安」を先回りする資料の見せ方

提案の中身が良くても、見せ方でつまずくことがあります。特に、先ほど触れた品質保証の関門は、資料で先回りできます。用途提案とセットで、次の書類を「聞かれる前に」出せると、承認までの時間が縮みます。

そろえておく書類何が書かれているか消せる不安
規格書保存方法・内容量・配合割合・添加物・アレルゲン・遺伝子組換えの有無・微生物規格・製造工程表示違反やアレルゲン事故のリスク
試験成績書出荷時の検査結果(微生物・危害要因など)異物・菌の混入リスク
製造工程図・衛生管理の体制(HACCP等)どんな工程で、どこを管理して作っているか工程管理が担保されているかの不安

取引先や小売によっては、FSSC22000のような国際的な食品安全規格の取得を求められることもあります。ここまで整えて出せると、品質保証の担当者は社内で「この会社は安心して使える」と説明しやすくなる。提案営業は、目の前の開発担当だけでなく、その後ろにいる品質保証や経営を社内で動かす手伝いだと考えると、資料の作りが変わります。

相談をもらえる関係は「接点の設計」で決まる

原料商社の提案営業—「売り込み」をやめた会社から選ばれる理由を実務に落とす3つのステップ

ここまでは提案の中身の話でした。もう一つ、提案がうまい会社に共通するのは「相談が向こうから来る」状態を作っていることです。新商品を考えるとき、原価で困ったとき、最初に思い出してもらえる。この位置に立てるかどうかが、受注の大半を決めます。

そのためにやることは、派手ではありません。地道な接点の積み重ねです。

  • 展示会で交換した名刺を、その日で終わらせない。食品素材の展示会(国際食品素材/添加物展 ifia JAPAN など)には毎年3万人規模が集まりますが、名刺は集めるものではなく、後日「あのとき話した用途、試作してみました」と一歩踏み込むための起点として使う。
  • 開発部門のキーマンが誰かを掴む。購買担当だけを回っていても、企画は動かない。商品を決める人に、課題ベースの話を届ける。
  • 売り込む用事がなくても、相手の業界で使えそうな情報を持っていく。「売りに来た人」ではなく「役に立つ人」として記憶してもらう。

「思い出してもらう」を、Webで先回りする

この動き方には限界もあります。訪問できる会社の数、フォローできる名刺の数は、人手で決まってしまう。優秀な営業がいる会社ほど、その人が回れる範囲でしか相談が来ない、という状態になりがちです。

この「思い出してもらう」を、人の記憶だけに頼らず、Webで先回りしておく方法があります。開発担当が「この用途に合う原料はないか」と調べたとき、自社の用途提案が出てくる。過去に交換した名刺の相手が、ふと検索したときに、その記事にたどり着く。営業が寝ている間も、接点が生まれ続ける状態です。

やることは、商談で口頭説明している用途を、検索からも資料からも拾える形に残しておくことです。「この原料でこんな商品が作れる」を、担当者が調べたときに見つかる場所へ置いておく。訪問営業とWebは対立しません。人が動ける範囲の外側を、Webが埋めてくれるという関係です。うまみ企画では、こうした食品・原料メーカー向けのデジタルマーケティング支援を行っています。営業の提案力を、Webの導線に翻訳していく仕事です。

まず、一つの用途提案から始める

提案営業への切り替えは、全営業のやり方を一度に変える必要はありません。それをやろうとすると、たいてい途中で止まります。

まずは主力の原料を一つ選び、「この原料で作れる商品」を一つ、用途提案の形にしてみる。試作まで持っていければなお良い。それに規格書などの品質書類を添えて、一社に当ててみて、担当者の反応を見る。手応えがあれば、次の原料、次の相手へ広げる。この順番なら、今の担当者のまま、次の商談から試せます。小さく試して、一つでも「その提案、助かる」と言われる。その積み重ねが、選ばれる商社への近道です。

よくある質問

用途提案といっても、こちらは原料屋で、商品開発の専門家ではありません。

専門家である必要はありません。同じ原料を複数のメーカーに納めていれば、どんな商品に使われたかという実例が必ず手元にあります。その納入実例を「狙い→用途→配合の方向性」の形に整理するだけで、開発担当には十分な手がかりになります。作り込んだ試作は、狙いを絞った相手にだけ用意すれば十分です。

担当者は乗り気なのに、いつも社内で止まってしまいます。

担当者の後ろにいる購買・品質保証・経営のいずれかで不安が残っている可能性が高いです。特に品質保証は、規格書やアレルゲン情報、製造管理の裏づけがないと承認を出せません。用途提案とあわせて、聞かれる前に品質書類をそろえて出すと、担当者が社内を通しやすくなります。

試作をこちらで用意すると、コストや手間が負担になりませんか。

全案件で試作を作る必要はありません。狙いたい相手や用途を絞り、通ったときの取引が大きいところから試作を用意します。当てずっぽうに数を打つより、用途を絞って一点に手をかけるほうが、結果的に効率は上がります。

何から相談すればいいか分かりません。

「原料はいいのに、提案が採用まで進まない」という一言で十分です。扱っている原料と、今の営業の流れを見せていただければ、どこから手をつけるべきかを一緒に整理します。

原料の良さを見つける力は、すでに持っている商社がほとんどです。それを買い手の課題の言葉に翻訳し、品質の裏づけを添えて、相談が来る導線に変える——そこを一緒に組み立てます。主力原料ひとつの用途提案を、まず一社に当てるところから始めましょう。

提案が通らない原因が売り方なのか、そもそもの取引構造や価格決定力なのかを切り分けたい場合は、経営フェーズ診断で自社の位置を確かめてみてください。設問に答えると、その場で結果が出ます。

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この記事を書いた人

小島 怜のアバター 小島 怜 うまみ企画 CEO

株式会社Agriture CEO/乾燥野菜やドライフルーツを中心とした受託加工・OEM事業。京都府内の農家と連携し、規格外野菜の活用や6次産業化支援を通じて、「持続可能な食の流通」を追求している。製造現場での豊富な実体験を活かし、商品企画から試作、小ロット対応、パッケージ設計、販路開拓支援まで、OEMを検討するすべての事業者に伴走するサポートを提供。

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