ベトナムの航空はVietJetが主役|14年で二強に駆け上がったLCC

ベトナムには2011年まで、民間の航空会社が1社も存在しませんでした。その空白に飛び込んだLCCのVietJet(ベトジェット)は、いまや年間2,820万人(2025年通年)を運び、国営フラッグと国内シェアを二分する規模へ駆け上がっています。ホーチミンのタンソンニャット空港で出発案内を見上げれば、赤と黄のVietJet便が画面を埋め、ハノイやダナン、そして東京・大阪・名古屋・福岡へと便名が続きます。十数年でここまで伸びた航空会社は、世界を見渡してもそう多くありません。
この記事は、ベトナムに拠点を置く当社が、日本のビジネス層・在住者・出張や旅行でベトナムを行き来する方に向けてまとめた航空業界の現在地です。主役はLCCのVietJet。その急成長を軸に、市場全体の構図、ライバル各社の明暗、新空港の話、そして「日本からベトジェットで安く行けるのか」という疑問まで、現地の視点で整理していきます。
ベトナムの空はいま、過去最高の混雑

ベトナムの航空旅客は2025年に総計約8,350万人(前年比+10.7%)へ達し、過去最高を更新しました(出典:VnExpress International)。内訳は国内3,690万人・国際3,800万人で、この年は国際線の旅客が初めて国内線を上回っています。伸びの主役は明確に国際線です。
なぜ国際線に流れるのか。国内線には運賃の上限規制があり、各社が薄いマージンで消耗戦を続けてきました。より収益性の高い国際線へ機体を振り向ける動きが業界全体で強まっています。市場構造も特徴的で、フラッグキャリアのVietnam Airlines(国営)とVietJet(民間LCC)の二強で国内シェアは86%超。実質的な複占です。ここへSunグループのSun PhuQuoc Airwaysが新規参入し、Vietravel Airlinesが資本を厚くして拡大に動くなど、競争は再び熱を帯びています。
主役はVietJet──14年で二強の一角に駆け上がったLCC
VietJetを率いるのは創業者のNguyen Thi Phuong Thao(グエン・ティ・フォン・タオ)氏。ベトナム初の自力の女性ビリオネアとして知られます。若い頃に東欧で貿易ビジネスを興して財を成し、金融(HDBank)にも関与してきた人物です。ベトナムに独立系LCCが存在しなかった市場へ、中間層の拡大と規制緩和の波を捉えて参入しました。
2011年12月の初就航から、VietJetは短期間で国内2位に浮上。2016年に上場すると、上場直後の時価総額が創業60年級の国営Vietnam Airlinesを一時上回りました。設立数年の新興LCCが老舗フラッグを追い抜いた瞬間です。水着姿の客室乗務員を起用した演出で「ビキニ・エアライン」の異名を取り、話題性で一気に認知を広げたのもこの会社です。
2025年の数字が示す勢い
2025年通年の連結決算(監査値)では、旅客2,820万人(+9%)、運航便数15万3,000便超(+11.2%)を記録しました。連結売上はVND82.093兆(約31億USD、+14%)、連結の税引後利益はVND2.123兆(約8,050万USD)で前年比+51.2%と、旅客の伸びを上回る利益成長です(出典:VietJet発表の監査値)。燃料安と国際線シフトが効きました。路線数は254本(国内52/国際202)に広がり、この年だけで22の新路線を開設しています。
「発注」と「保有」は別物です
VietJetの機体数を語るとき、混同しやすいのが発注機数と保有機数です。後述するA321neo280機や737 MAX200機は「発注・契約ベース」の数字で、実際にフリートへ入るのは数年〜十数年がかり。いま実際に飛んでいるのはグループ総計で135機(うちベトナム本体101機)です。ニュースの見出しに並ぶ大きな数字は将来の器、手元の機体はそれとは別、と押さえておくと読み間違えません。
いま飛んでいる機体と、これから来る機体
現有フリートはグループ135機、平均機齢は約7.5年。構成比はナローボディが約92%で、A320・A321系が主力です。長距離・国際線向けにワイドボディのA330を増やしている段階で、ワイドボディはまだ約8%にとどまります。
将来の成長ドライバーが大量発注です。A321neoは2025年10月に100機を確定発注し、累計発注は280機に。長距離用のA330neoは追加20機で確定発注が計40機になりました。ボーイングとは737 MAXを最大200機発注しており、2016年発注分の初号機を約6年遅れの2025年9月にシアトルで受領しています。これはVietJet初の非エアバス機です。加えて787 Dreamliner20機の商談もあると報じられています。下の表は発注と保有を分けて整理したものです。
| 機種 | 用途 | 発注・契約ベース(将来の器) |
|---|---|---|
| Airbus A321neo | 国内・近距離国際の主力 | 累計280機(2025年10月に100機確定) |
| Airbus A330neo | 長距離ワイドボディ | 確定発注 計40機 |
| Boeing 737 MAX | ナローボディ拡大 | 最大200機(初号機を2025年9月受領) |
| Boeing 787 | 長距離(交渉中) | 20機を商談中との報道 |
| 現有フリート | いま飛んでいる機体 | グループ135機/本体101機 |
国境を越えるVietJet
拡大は国内だけにとどまりません。タイ拠点のThai Vietjet(タイ・ベトジェット)はバンコクを起点に東南アジアと日本を結び、2025年5月にはカザフスタンでJV(Vietjet Qazaqstan)を設立してアルマトイを中央アジアのハブに据えました。2025年に開設した22の新路線の多くは中国・中央アジア向けで、日本人には馴染みの薄い方面に先手を打っています。
日本路線──週138便、地方都市へも直行
日本の読者に直結するのが日本路線です。VietJetの発表では、同社は2025年時点で日本〜ベトナムを週138便・直行10路線で運航し、ハノイ/ホーチミンと東京・大阪・名古屋・福岡・広島を結んでいます。2025年4月にはホーチミン〜名古屋(週4便)とホーチミン〜福岡(週3便)を新規開設し、地方発着の選択肢を増やしました。いずれもA321・184席での運航です。
2026年は日本が成長戦略の中核に位置づけられ、Thai Vietjet経由でバンコク〜大阪関西やバンコク〜東京成田も加わります。東京・大阪の一極ではなく、名古屋・福岡・広島発でも直行が取れる状況は、出張や視察のコストと時間の柔軟性を確実に押し上げます。空港に着いてからの移動は、ベトナムの配車アプリ事情の記事で解説したGrabやXanh SMが頼りになります。現地での支払いはベトナムの決済事情の記事、通信は現地SIMの記事もあわせてご覧ください。
復活したVietnam Airlines、停止したBamboo──二強の周辺で何が起きたか
VietJetが攻めの投資を続ける一方で、他社の状況は大きく割れています。国営のVietnam Airlinesは、コロナ禍で債務超過に陥った苦境から一転、2025年に連結売上VND121.43兆超(+約10%)で過去最高を更新し、記録的な利益で復活しました(出典:Vietnam Airlines発表)。子会社にLCCのPacific Airlinesを持ち、一度は全機返却・全便停止まで追い込まれたこのLCCも、親会社からA321を3機借りて運航を再開しています。
対照的なのがBamboo Airwaysです。FLC Group傘下で2019年に就航し、一時は最大44機・787で欧州や豪州まで飛ばしましたが、親会社FLCの破綻と創業者の逮捕で運転資金を失い急縮小。機材は数機まで減り、2026年8月に国内スケジュール運航を停止しました。新興のVietravel Airlinesは旅行会社系の小規模キャリアで、T&T Groupの資本を得て機体を積み増し中。観光需要を狙うSun PhuQuoc Airwaysも新規参入し、二強の周辺で顔ぶれが動いています。
| 航空会社 | 区分 | いまの立ち位置 | 機材規模の目安 |
|---|---|---|---|
| VietJet Air | LCC(民間) | 国内首位級・国際急拡大・大量発注 | グループ135機 |
| Vietnam Airlines | フルサービス(国営) | 2025年に過去最高益で復活 | 100機前後(子会社別) |
| Bamboo Airways | (旧)FSC→事実上停止 | 破綻で急縮小、2026年8月に運航停止 | 1〜3機 |
| Pacific Airlines | LCC(VNA子会社) | 全停止→3機で再開 | A321×3 |
| Vietravel Airlines | LCC(新興) | T&T資本で拡大中 | 4機→追加計画 |
| Sun PhuQuoc Airways | 新規 | 観光需要狙いで参入 | 立ち上げ期 |
年1億人構想がホーチミンの混雑をどう変えるか
機体だけでなく、受け皿となる空港も動いています。ホーチミン近郊のドンナイ省で建設が進むLong Thanh(ロンタイン)新空港は、2025年12月に技術飛行を実施し、2026年の商業運航開始が予定されています(開始時期は報道で「2026年半ば」「2026年後半」と幅があります)。フェーズ1完成時の処理能力は年2,500万人、長期マスタープランでは年1億人という東南アジア級のメガハブ構想です(出典:ACV/政府マスタープラン)。
運営主体のACVは、欧州・インド・中東・北米といった長距離国際線をタンソンニャットからロンタインへ移す方針です。慢性的に混雑するホーチミンの現空港の負荷を下げる狙いで、VietJetの新路線拡大と開港が噛み合えば、ベトナム経由で第三国(インド・中央アジア・豪州)へ抜けるルートも広がります。
日本のビジネス目線で押さえること

日本〜ベトナム路線は、VietJet(+Thai Vietjet)、Vietnam Airlines、ANA・JAL、Zipairなどが競合し、運賃は下がり便数は厚くなっています。名古屋・福岡・広島など地方発の直行も増え、ホーチミン/ハノイの主要路線は便数が多く、日帰り〜1泊の弾丸出張も現実的な選択肢です。
- 地方都市発の直行が増え、東京・大阪一極でない往来が可能になった
- 便数が厚い主要路線は、視察・商談の日程を組みやすい
- LCC利用時は遅延・欠航・受託手荷物の別料金など、信頼性面の留意点は各社で差がある
ベトナム進出や現地事業の立ち上げを検討する段階で、こうした「移動の器」がどう変わるかは無視できない要素です。市場調査から拠点づくりまで伴走が必要な場合は、ベトナム進出支援BRIDGEや無料診断もご活用ください。
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まとめ
ベトナムの航空市場は2025年に過去最高の8,350万人まで回復し、国際線が国内線を上回る転換点を迎えました。その中心で攻め続けるのがLCCのVietJetです。旅客の二桁成長・利益+51.2%という数字と、発注280機規模のエアバス、初受領した737 MAX、日本各都市への直行拡大が、この会社の勢いを物語ります。一方でBamboo Airwaysの停止、Vietnam Airlinesの復活、ロンタイン開港と、業界全体が大きく組み替わる局面です。日本から見れば選択肢が増え運賃が下がる好機。数字を「発注か保有か」「年次はいつか」と分けて読みながら追いかける価値があります。
また、旅行や出張で現地を実際に使うときの手順は、ベトナム旅行メディアの記事「日本からベトナムへの直行便と航空会社の選び方」も参考になります。
よくある質問
日本からベトジェットで安く行けますか?
行けます。VietJetは日本〜ベトナムを週138便・直行10路線で運航し、東京・大阪に加え名古屋・福岡・広島発の直行もあります。LCCのため運賃は抑えめですが、受託手荷物は別料金で、遅延・欠航のリスクはフルサービス便より高めです。日程に余裕を持たせると安心です。
VietJetは何機の飛行機を持っていますか?
いま実際に運航している機体はグループ総計で135機(うちベトナム本体101機)です。ニュースで見る「280機」「200機」といった数字は発注・契約ベースで、これから数年〜十数年かけて受領する将来の機体数です。保有と発注は分けて理解してください。
Bamboo Airwaysはまだ飛んでいますか?
2026年8月に国内のスケジュール運航を停止しました。親会社FLCの破綻と資金難で機材が大幅に減り、787も手放しています。日本からの渡航ではVietJetやVietnam Airlinesが現実的な選択肢です。
ロンタイン新空港はいつ開きますか?
2026年の商業運航開始が予定されています。開始時期は報道で「2026年半ば」「2026年後半」と幅があるため、利用計画は最新情報の確認をおすすめします。開港後は長距離国際線がタンソンニャットから段階的に移る見込みです。
