海外の展示会で、私が名刺より大事にしていること

海外の展示会で、私が名刺より大事にしていることの要点を整理した図

海外の展示会に足を運ぶたびに感じるのは、日本と海外では、展示会の「その後」がまったく違うということです。同じように名刺を配っても、返ってくる反応が違う。だから、日本と同じ感覚で臨むと、たいてい空振りに終わります。

今回は、海外の展示会をどう使うか、私が現地で実際に感じていることを、そのままお話しします。売り込みのテクニックというより、「その場で何を持ち帰るか」の話だと思ってください。

目次

日本の展示会と、海外の展示会は「その後」が違う

海外の展示会で、私が名刺より大事にしていることで押さえる3つの視点

日本の展示会だと、名刺を渡すと、その日のうちに連絡が来て、そのままミーティングに進むこともあります。相手も「まず一度お話を」と、丁寧にフォローしてくれる文化があります。

一方、海外は、国にもよると思いますが、基本的にそんなに丁寧には連絡が来ません。だから、こちらからアタックしていく必要があります。待っているだけでは、話は進みません。しかも相手の規模が大きい。中東ならGulfood(ドバイ)、インドならSIAL India、東南アジアならTHAIFEX(バンコク)やFHA(シンガポール)といった大きな食品展示会があります。Gulfoodは世界最大級で、直近は120カ国以上・5,000社を超える規模。FHAにも世界中から数千社が集まります。世界中からバイヤーも出展者も集まる場では、渡した名刺一枚は、あっという間に山の中に埋もれてしまいます。

日本の展示会海外の展示会
連絡のスピードその日〜数日で来ることも基本は来ない前提で動く
フォローの主体相手からも来るこちらからアタックする
その場の相手名刺の肩書きがほぼ実態代理・仲介・個人が混じる
使いどころ商談を進める場関係を作り、現地を掴む場

その場で「会社の人」を信頼しすぎない

一つ、気をつけたいリスクがあります。これは過去に私が聞いた話です。展示会にいたある人が、実はどこかの会社のドライバーのような立場の人で、後日、案内だけをして案件として取ってきた。ところが、お金はその会社ではなく個人に入っていて、結局、話は何も進まなかった。そういう事例があったそうです。

海外の展示会では、その場で「この人は会社の人だ」と信頼しきってしまうのは、少しリスクがあります。名刺の肩書きと、実際にその会社を動かせるかは、別の話だからです。相手が本当に意思決定に関われる人なのか、あるいは仲介として間に立ちたいだけの人なのか。そこはその場では分かりません。だからこそ、一度の会話で決めきらないことです。後日、実際に会社や工場を訪ねられる相手かどうか――そこまで付き合えるかで、その人の本気度も、会社を本当に動かせるのかも、少しずつ見えてきます。

名刺よりも、その場でSNSをつなぐ

では、どう使うか。私が大事だと思っているのはSNSです。正直、名刺を渡したところで、連絡が返ってくるかは分かりません。だから、できる限りその場で話して、名刺にある番号からWhatsAppや現地のSNSを登録してしまう。あるいは、その場でアカウントを聞いておく。中東や東南アジア、インドでは、ビジネスの連絡もWhatsAppのようなメッセージアプリで日常的に進むので、そこにつながっておくだけで距離がぐっと縮まります。

そのうえで、後日、実際に会社を見に行ったり、ショールームや工場を訪ねてゆっくり話したりする。展示会のブースで交わす数分より、そのひと手間のほうが、よほど関係を進めてくれます。そこまでやると、「本当にやる気のある相手だ」と思ってもらえて、より良い関係が築けるのではないかと思っています。

最初のコミュニケーションが、いちばん大切

向こうからすれば、「一人の外国人が来た」という感覚だと思います。本当に取引をやるのかも分からないし、商習慣も違う。日本のように「まず名刺、まず御見積」という順番も、そのまま通じるとは限りません。

その前提で、最初のコミュニケーションをどう作るか。ここがいちばん大切だと思っています。いきなり商品の話をするより、まず相手に興味を持って、少し雑談して、連絡先をつないでおく。信頼を先に少しだけ渡しておく感覚です。だから、そこは面倒がらずに丁寧にやりましょう。海外での商談は、たいていこの最初のところで決まっていると感じます。

私が面白いと思うのは、商品より「宗教観」

日本は本当にいろいろな食品があって、食品技術はかなり最先端だと思っています。ただ、私が海外の展示会でいちばん面白いと思うのは、技術よりも、日本にはない「宗教観」です。例えばインドのベジタリアン、中東のイスラム。日本にはあまりない宗教的な背景ですが、現地の展示会に行くと、ベジタリアンに特化した商品や、イスラムに対応した商品が、当たり前のようにいくつも並んでいます。

インドの「ベジタリアン」は、引き算ではなく足し算

海外の展示会で、私が名刺より大事にしていることを実務に落とす3つのステップ

面白いのは、考え方の違いです。日本でベジタリアンというと、食事から肉を抜く、野菜だけを残す、という引き算の発想になりがちです。でもインドは、そもそもベジタリアンがベースの国です。肉を抜いた残りではなく、最初から菜食を前提に一から組み立てる。だから引き算ではなく足し算なのです。ベジタリアンを土台にして、そこに肉を「添える」、という順番になります。

これは、単なる私の印象ではありません。インドでは、自分をベジタリアンと考える人が人口のおよそ4割と言われ、その根っこにはヒンドゥー教やジャイナ教の「アヒンサー(非暴力・不殺生)」という、2000年以上続く考え方があります。実際、インドで売られている加工食品には、植物性なら緑の丸、動物性を含むなら茶色の三角のマークを付ける表示制度(FSSAIの法定表示)があり、パッケージを見れば一目で見分けられます。もともとノンベジは丸でしたが、色だけでは見分けにくい人がいるため、三角に変わった経緯もあります。「Pure Veg」を掲げる店は、調理器具も油もノンベジと完全に分けています。さらに、卵は食べるけれど肉や魚は食べない「エッゲタリアン」という中間の人たちもいます。ベジが例外ではなく初期状態なのです。この前提を知っているだけで、商品の作り方も、見せ方も、まるで変わってきます。

中東の「ハラル」も、避けるのではなく整える

中東のイスラム対応、いわゆるハラルも同じです。世界のハラル食品市場は年々拡大していて、直近では3兆ドル規模ともいわれます。けっして小さな話ではありません。ただ、これは「思いつきで対応」できるものではありません。中東の国々では、動物性の製品はハラル認証が必須となる国が多く、サウジアラビアやクウェートは特に厳格です。東南アジアでも、各国の認証機関と相互に認められた認証が求められます。原料から製造ラインまで含めて整える必要があります。しかも認証はあくまで入口で、実際は現地の表示ルールや製品登録など、他の条件も重なってきます。

ハードルが高いのは事実です。でも見方を変えれば、そこを整えた商品は、それだけで巨大な市場に入る資格を得られる、ということでもあります。インドのベジも、中東のハラルも、私は「制約」ではなく「別の初期状態」だと捉えています。その初期状態から発想すると、日本で作っている商品とはまったく違うものが見えてきます。

取引が決まらなくても、地域の特性を掴むだけで価値がある

だから、必ずしもその場で取引が決まらなくてもいいんです。展示会は「売りに行く場」であると同時に、「相手の初期状態を学ぶ場」でもあります。どんな宗教観で、どんなものを普段食べていて、何が並んでいて、何がないのか。その地域の特性を掴むだけで、次の商品づくりのヒントになり、一つのチャンスになります。新規事業の発想については、「少しずらす戦略」の記事もあわせてどうぞ。

海外の展示会をこういう形で使えると、数字やデータだけでは分からない現地の空気感まで持ち帰れて、とてもいい。名刺を何枚配ったかではなく、現地を何センチ深く理解できたか。私は、そこで展示会の価値が決まると思っています。

よくある質問

海外の展示会は、出展と視察のどちらから始めるべきですか?

私は、まず視察からでも十分だと思っています。いきなり出展すると費用も準備も大きいですが、視察なら現地の「初期状態」――何が並び、何が求められているか――を低リスクで掴めます。そこで手応えを感じてから出展に進んでも遅くありません。

ベジタリアンやハラルは、認証がないと売れないのですか?

国と製品によります。中東では動物性製品にハラル認証を必須とする国が多く、その場合は認証なしでは流通が難しくなります。一方で、視察や現地の特性を掴むだけなら認証は要りません。まずは市場を理解し、勝てそうな領域が見えてから認証の話に進むのが現実的だと思います。

現地で名刺を配っても連絡が来ません。どうすればいいですか?

名刺だけに頼らないことです。その場でWhatsAppや現地SNSをつないでおき、後日こちらから連絡する。可能なら会社やショールームを訪ねて、直接ゆっくり話す。海外では、この「こちらから動くひと手間」が関係を進めてくれます。

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この記事を書いた人

小島 怜のアバター 小島 怜 うまみ企画 CEO

株式会社Agriture CEO/乾燥野菜やドライフルーツを中心とした受託加工・OEM事業。京都府内の農家と連携し、規格外野菜の活用や6次産業化支援を通じて、「持続可能な食の流通」を追求している。製造現場での豊富な実体験を活かし、商品企画から試作、小ロット対応、パッケージ設計、販路開拓支援まで、OEMを検討するすべての事業者に伴走するサポートを提供。

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