ベトナムのチョコレート・Marouに学ぶ、産地を「買いたい理由」に変えるブランドづくり

ベトナムのチョコレート・Marouに学ぶ、産地を「買いたい理由」に変えるブランドづくりの要点を整理した図

産地も、原料も、製法も説明している。それでも、最後は価格で比較されてしまう。地域の食品を扱うメーカーには、そんな悩みがあるのではないでしょうか。

ベトナムのチョコレートブランドMarouを見ると、考える手がかりがあります。同社はベトナム産のカカオを使うだけでなく、産地ごとの商品を揃え、Maison Marouという店でチョコレートの世界を体験できるようにしています。Maison Marouのブランド紹介

参考にしたいのは、「ベトナム産を高級に見せた」という表面的な話ではありません。土地の情報を、選ぶ楽しさ、味わう体験、人に贈る理由へつないでいることです。この記事では公開されている商品・店舗の構成をもとに、日本のメーカーが応用できる考え方を読み解きます。非公開の売上や、経営者の意図を推測して成功の原因と断定するものではありません。

目次

「ベトナム産」の一言で終わらせず、産地を選択肢にする

ベトナムのチョコレート・Marouに学ぶ、産地を「買いたい理由」に変えるブランドづくりで押さえる3つの視点

Marouは、ベトナム南部の複数の省から調達したカカオを使い、単一産地のチョコレートを展開しています。公式にはDak Lak、Lam Dong、Dong Nai、Ba Ria、Tien Giang、Ben Treが紹介されています。Marouの商品背景

ここで面白いのは、原産国の説明が、そのまま商品を選ぶ行為につながっていることです。「ベトナムにもカカオがある」と知って終わるのではなく、どの産地を試そうか、違いを比べてみようかという選択が生まれます。

食品の産地説明は、ともすると作り手の話だけになりがちです。どれほど苦労して育てたか、どんな歴史があるかは大切ですが、それだけでは買う側が何を選べばよいか分かりません。産地の違いが味や楽しみ方にどう表れるかまで届いて、初めて商品選択の助けになります。

日本の地域食品でも、同じ問いが使えます。茶葉、蜂蜜、味噌、果実、米。地域名を並べるだけでなく、「自分の好みに合うものを探す」「家族と比べる」「贈る相手に合わせる」といった行為までつくれているでしょうか。

商品の外側に、味わう場所をつくる

Maison Marouの公式紹介では、2016年にサイゴンで最初の店舗が生まれたことや、チョコレートを使った菓子づくりが紹介されています。Maison Marou公式サイト

テイスティングの紹介ページでは、産地別のチョコレートを比較し、感じた特徴を冊子に書き留める体験が説明されています。単に試食品を渡すのではなく、「違いをどう感じるか」まで案内する構成です。なお、2026年9月29日の確認時点では同ページに延期中とあるため、現在参加できるイベントとしての紹介ではありません。公式のテイスティング紹介

メーカーの視点から見ると、これは販売先が増えたというだけではありません。知らない原料や味の違いを、説明文以外の方法で知る接点を持っているということです。

産地や製法を詳しく説明するほど、初めての人には敷居が高くなることもあります。けれど、まず菓子として楽しみ、気になったら素材を知る順序なら、知識のない人も入りやすい。「知ってから買う」だけでなく、「楽しんでから知りたくなる」という入口です。

この順序は、日本のメーカーが体験を企画する際にも役立ちます。製法の長い説明会より、違いが分かる食べ比べ。工場の設備紹介より、その設備だからつくれる食感を試す機会。作り手が語りたい順番と、客が興味を持つ順番を分けて考えるのです。

日常のおやつと、贈り物では比較される相手が違う

同じチョコレートでも、毎日の間食と、旅先で選ぶ贈り物では買う理由が変わります。前者では量や食べ慣れた味、後者ではその土地との関係や、相手に話したくなる内容も意味を持ちます。

これは、包装を豪華にすれば高く売れるという話ではありません。贈る側が「なぜこれを選んだか」を自分の言葉で説明できることが大切です。旅先の土地を知るきっかけになった、味を比べて相手に合うものを選んだ。その一言を支える商品と情報があるかどうかです。

うまみ企画が運営するベトナム旅行情報サイトでも、チョコレートは土産を選ぶテーマとして扱っています。ただし、そこでの読者の関心は日本人旅行者の文脈です。ベトナムの生活者全体の購買傾向と同じには扱えません。vietnam-giftのチョコレートガイド

メーカー側は、日常用と贈答用で何を変え、何を共通にするかを考えられます。中身の品質を共通にしながら、組み合わせ、説明、購入場所、渡し方を調整する。新しい製造設備より、届け方の設計が先に効く場合があります。

法人ギフトは、同じチョコレートに別の買い手をつくる

Maison Marouの法人ギフト案内には、チョコレートバーを3枚・6枚で組み合わせ、企業のロゴやメッセージを入れたスリーブを付ける方法が掲載されています。さらに、包装の変更にとどまらないレシピの協業も案内しています。Maison Marouの法人ギフト

ここで買い手が選んでいるのは、おやつだけではありません。相手に気持ちを伝える物、企業の考えを表す物、催しの記憶を残す物です。製造するチョコレートが近くても、購入の目的が変わることで、提案の相手と予算の出どころが変わります。

メーカーが参考にしたいのは、要望への応え方に幅がある点です。既存品の組み合わせなら何を選べるか。包装ならどこまで変えられるか。中身まで変えるなら何が必要か。これを分けておけば、すべてを特注開発にせず、自社の製造を生かした提案を考えられます。

地域食品でも、「高級な箱を作る」より先に、贈る企業が何を伝えたいのかを考えるほうが、企画の芯が定まります。既存の製品から別の買い手をつくる方法は、Agritureを例にしたメーカーの新規事業の記事でも整理しています。

地域の物語は、購入前・購入時・購入後で役割が変わる

ベトナムのチョコレート・Marouに学ぶ、産地を「買いたい理由」に変えるブランドづくりを実務に落とす3つのステップ

産地の話を一つの長い紹介ページにまとめるだけでは、必要な場面で届かないことがあります。三つの場面に分けると、何を伝えるべきかが整理できます。

購入前には、「これは自分に関係がありそうだ」と思える入口が必要です。味の特徴、食べる場面、贈る相手など、買い手に近い話から始めます。生産者の詳細な経歴を最初に読ませる必要はありません。

購入時には、選択を助ける説明が必要です。似た商品との違い、初めてならどれがよいか、組み合わせるなら何が楽しいか。産地の知識は、迷いを減らすために使います。

購入後には、商品を使い切り、誰かに紹介したくなる情報が役立ちます。食べ方、保管、組み合わせ、次に試せる種類。「良い話を知った」で終わらず、もう一度商品と出会う理由までつなげます。

これは食品以外でも同様です。地域の素材を使った生活用品なら、産地の歴史に加えて、使うときの感触や手入れの仕方まで一貫して伝える必要があります。

真似するなら店舗の外観ではなく、価値のつながり

Marouを見て、すべてのメーカーがカフェを開くべきだと考えるのは飛躍です。店舗には運営、人材、立地、投資の負担があります。メーカーと飲食店では必要な能力も異なります。

応用できるのは、「素材の違いを知る→体験する→選んで買う」というつながりです。自社店舗を持たなくても、取扱店での食べ比べ、料理人との共同メニュー、期間限定の出店、ギフトセットなどで、その一部をつくれます。

期間限定で試すなら、単に売上をつくる催事なのか、買う理由を見つける場なのかを分けます。メーカーのポップアップの考え方で、この違いを掘り下げています。

たとえば、地域の蜂蜜を扱うメーカーなら、産地ごとの説明を増やすだけでなく、合わせるパンや飲み物と一緒に体験してもらう企画が考えられます。これは仮説例ですが、「希少だから高い」より、「この食べ方が好きだから選ぶ」という理由に近づきます。

一方で、産地による違いを買い手が実感しにくい商品に、無理に産地別の商品数を増やす必要はありません。作り手にとって重要な違いと、客にとって選びたい違いは、必ずしも一致しないからです。

自社の産地や製法は、買う人の行動につながっているか

見直したいのは、物語の長さではありません。商品を見た人が「誰のために買うか」「どう楽しむか」「どれを選ぶか」を想像できるかです。

Marouの公開された取り組みは、ベトナムの素材を、単なる原材料としてではなく、選んで体験する商品にしている点で参考になります。日本のメーカーも、自社の素材や技術を説明し直すだけでなく、体験と売り方まで組み合わせる余地があります。

うまみ企画では、商品の強みを整理するところから、顧客、体験、販路の設計まで相談を受けています。「品質や産地には自信があるが、買いたい理由として伝わっていない」という課題を一緒に考えます。商品の価値と売り方を相談する

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この記事を書いた人

小島 怜のアバター 小島 怜 うまみ企画 CEO

株式会社Agriture CEO/乾燥野菜やドライフルーツを中心とした受託加工・OEM事業。京都府内の農家と連携し、規格外野菜の活用や6次産業化支援を通じて、「持続可能な食の流通」を追求している。製造現場での豊富な実体験を活かし、商品企画から試作、小ロット対応、パッケージ設計、販路開拓支援まで、OEMを検討するすべての事業者に伴走するサポートを提供。

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