ベトナム市場の魅力は「成長率」だけでは分からない。現地ブランドから考える消費財の可能性

ベトナムで事業を考えるとき、市場規模や成長率を知ることは大切です。ただ、それを読んでも「自社の商品が、誰に、どう喜ばれるのか」までは見えてきません。
そこで見たいのが、現地で展開するブランドの具体的な商品と売り方です。産地ごとのカカオを楽しむチョコレート、日本の抹茶の品種を選ぶ専門店、季節の行事を楽しむカフェの企画。そこには、安さだけでは説明できない買い物の理由があります。
この記事では、Marou、NAGOCHA、KATINATの公開情報を手がかりに、食品・消費財メーカーがベトナム市場を見る視点を整理します。取り上げるブランドは市場全体の代表サンプルではなく、新しい事業の仮説をつくるための具体例です。
「何が売れているか」の前に、何を楽しんでいるかを見る

現地の商品を調べるとき、日本の商品との価格差や、似た競合の有無は気になるところです。しかし、それだけでは「日本の商品は高すぎる」「競合があるから難しい」という判断になりやすくなります。
もう一つ知りたいのは、消費者がどんな時間や気分のために商品を選ぶのかです。日常の飲み物なのか、気分転換なのか、親しい人への贈り物なのか、旅先での発見なのか。同じ人でも、場面によって比較する相手や価格の受け止め方は変わります。
日本のメーカーにとっての可能性も、「ベトナムにこの商品がない」という空白だけにあるわけではありません。すでにある楽しみ方を、素材、技術、使い勝手、企画でさらに良くする余地にもあります。
Marou:土地の個性を、選びたくなる商品にする
Marouは、ベトナム南部のカカオ産地ごとのチョコレートを展開し、Maison Marouではチョコレートを中心とした体験を提供しています。原料の出どころと、商品を楽しむ接点がつながっているブランドです。Maison Marouの公式紹介
ここから読み取れるのは、ローカルな原料が、単に安く供給するための素材とは限らないことです。土地の違いを知り、比べて選び、人に贈る。そうした楽しみ方をつくることで、原料の個性が完成品の価値になります。
日本企業がベトナムで商品を考えるときも、「日本の品質を持ち込む」という一方向だけでなく、現地の素材や文化と組み合わせる方向があります。製造技術を生かして現地の原料の良さを引き出す、共同でギフトや体験をつくる、といった事業の仮説です。
もちろん、Marouの展開がすべての地域食品に当てはまるわけではありません。重要なのは、産地の物語を語るだけでなく、買い手が選べる違いと体験に変えることです。
産地の違いを商品選択や法人ギフトにつなげる仕組みは、Marouのブランドづくりを読み解く記事で詳しく扱っています。
NAGOCHA:日本の素材を、知って選ぶ楽しみにする
抹茶専門店NAGOCHAは、日本の茶産地や品種を紹介し、店舗で味わうことと自宅用の抹茶購入を案内しています。公式沿革には、2026年のハノイ、ホイアン、ホーチミンでの出店も記載されています。NAGOCHAの公式紹介、品種・購入案内
これは、日本由来の商品が現地でどう見せられるかを考える好例です。「日本産の抹茶です」で説明を止めず、品種や楽しみ方に関心を持つ入口を用意しています。
日本のメーカーにも、自社で当たり前と思っている違いを、買い手が楽しめる形で伝える余地があります。ただし、専門知識を大量に翻訳することとは違います。初めての人が試しやすく、興味を持った人には選ぶ深さがある。そうした情報と体験の順序が必要です。
店舗展開の事実だけで、抹茶市場全体の規模や利益を判断することはできません。一方で、日本の素材を軸に、現地で独自の顧客接点がつくられていることは、海外展開を考えるうえで注目したい動きです。
日本の供給側がすべての店舗を持つ必要があるわけでもありません。NAGOCHAの素材と店舗の関係を見ると、素材の専門性と、現地で楽しんでもらう役割を分ける考え方が見えてきます。
KATINAT:日常の飲み物に、季節と他のブランドを重ねる
KATINATは2026年のテト企画で、対象ドリンクの購入と抽選を組み合わせ、Samsung Galaxyの製品やグッズなどを景品として案内しました。これは終了済みの企画です。KATINATの2026年テト企画
飲料と電子機器は違うカテゴリーですが、生活者が楽しむ一つの企画の中で出会っています。メーカーにとっては、自社の商品を置く場所を、同じ種類の商品の棚だけに限定しないヒントになります。
生活雑貨や食品がカフェの時間に関わる、地域の素材が贈り物の企画に参加する。こうした可能性を考えるとき、見るべき対象は商品だけでなく、顧客が集まる場所や季節の行動です。
ただし、有名ブランドと組めば売れるという話ではありません。相手の顧客に、自社が何を追加できるかが必要です。単なる露出の交換より、使う理由を一緒につくる発想が大切になります。
KATINATのメニューと季節企画を扱う記事では、抹茶などの素材が現地の飲み物として組み替えられる点も見ています。
三つの例に共通するのは、商品の先に楽しみ方があること

Marou、NAGOCHA、KATINATは、それぞれ違う事業です。それでも、公開されている取り組みを並べると、メーカーが考えたい三つの方向が見えます。
- 素材や産地の違いを、比べて選ぶ楽しみにする。
- 商品を初めて知る人に、試して理解する体験を用意する。
- 季節や生活の場面、別のブランドとつなぎ、買うきっかけをつくる。
これは、ベトナムの消費者すべてが高価格品を好むという意味ではありません。日々の価格競争とは別の場所で、価値が伝わる場面を具体的に探せるということです。
「日本より所得が低いから難しい」「成長しているから何でも売れる」。どちらの一括りも、個々の買い物を見えにくくします。自社が届けたい相手と場面に絞って考える必要があります。
三つのブランドを、単に「おしゃれな店」でまとめないことも重要です。贈る理由を強くする事業なら、商品の背景と組み合わせが効いてくる。違いを選ぶ専門店なら、素材の種類と案内の仕方が必要になる。季節の企画へ参加するなら、その時期に使う意味と、企画を実行する相手が必要になる。同じ市場の魅力でも、自社が用意すべきものは違います。
たとえば、地域素材の調達に強い会社と、飲料への加工に強い会社では、同じ現地ブランドを見ても持ち帰る問いが違うはずです。「この商品を日本でも売りたい」で終わらせず、「相手の魅力のどこを、自社の強みで支えられるか」まで考える。それが視察を事業の検討に変える一歩です。
完成品の輸出以外にも、メーカーの参加方法がある
現地の体験やブランドを見ると、自社商品をそのまま棚に並べる以外の関わり方も浮かびます。原料として供給する、現地企業と共同開発する、期間限定のメニューやギフトをつくる、商品を使う体験を一緒に設計する、といった方法です。
食品だけでなく、器、生活雑貨、包装、日用品にも考え方は応用できます。ただし、具体的な需要や提携先が確認されたわけではありません。自社の技術を必要とする相手がいるか、採算と供給が成立するかを、個別に確かめる必要があります。
最初から自社ブランドの大規模展開を目指すのか、現地の相手と一つの企画を試すのか。海外売上、ブランドづくり、技術の活用など、何を目的にするかによって入口は変わります。
現地を見るとき、商品写真のほかに持ち帰りたい情報
現地視察では、目立つ店を回り写真を撮るだけで終わらせたくありません。誰が、どんな場面で選ぶ商品なのか。その商品は何と比較され、どの説明や体験が判断を助けているのか。気に入った人は、次にどこで買うのか。ここまで見ると、自社への示唆が増えます。
また、旅行者が集まる店で見た反応と、現地の生活者の日常の買い物は分けて考えます。日本語の旅行情報で話題の商品が、そのまま現地市場の売れ筋とは限りません。観察した場所や客層の範囲を意識することが大切です。
ベトナムの魅力は、成長する市場に商品を置けることだけではありません。現地のブランドや事業者と、新しい価値のつくり方を考えられることにもあります。
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